少年二人を連れた紳士が部屋を出て行った後、クレアは衝立の陰に隠れて服を脱ぐ。
「コルセットがないと、着替えって本当に楽ね。わたし一人でもできるわ」
これまで一人では着替えもできないと言われていたし、自分でもそうだと思っていたのだが、違った。コルセットとドレスの組合せでさえなければ、クレア一人でも着替えはできる。
つまりは、コルセットが全ての元凶だったのだ。
クレアが何も出来ない子だったのではない。
「……温かい」
全ての服を脱ぎ終わり、盥の湯船に浸かる。湯量はクレアの腰の高さ程しかないのだが、そこまでの贅沢は言えない。野宿の間は川を見つけて水浴びをするしかなかったので、雨に濡れて冷えてしまった身体には、温かいお湯に浸かれるだけでもありがたかった。
狭い盥の中で膝を立て、足の指を揉み解す。すごく気持ちがいい。
指の間に肉刺を見つけ、怖々と押さえてみる。痛くはない。見つけたばかりではあったが、すでに治り始めているらしい。
歩き続けると肉刺ができ、それが潰れると地に足も着けないほど痛くなるなんて、離宮で暮らしていては一生経験しなかったことだ。
他に肉刺はないか、どこか痛む場所はないかと入念に足の裏を調べ、クレアは最後に伸びをした。
「……イグニスも、入りたかったかな」
自分がこんなにも気持ちいいのだから、きっとイグニスも気持ちいいと思うはずだ。クレアと同じく、イグニスも野宿の間は川での水浴び生活だったのだから。
クレアの目に入らないよう隠れてはいたが、偶然に何度か見かけたイグニスの裸身を思いだし、一人赤面する。
筋骨隆々と言って良いイグニスの体つきは、女の自分とは違いすぎた。
(そういえば、今夜は……)
寝台のある部屋で、二人きり。
嫁になってくれ、と駆け落ちはしたが、未だに恋人らしいことは何もしていなかった。せいぜいが、口付けをする程度だろう。
花嫁教育として、男女のあれこれを習ったクレアとしては、少々物足りない。
クレアはしばらく二つ並んだ寝台を見つめると、黙々と自分の体を洗いはじめた。