トランバンから少し離れた丘の上に陣を移動させ、ニーナの預かる救護班は傷ついた兵士の手当てをするための天幕を張った。
 ここからならば、戦場の様子がつぶさに見て取れる。

 癒しの力を扱える一人として従軍していたは丘の上に立ち、トランバンを見つめ――――――眉をひそめた。
 おかしい。
 先程から、ハイランド軍の進軍が止まっている。
 トランバンの城壁から出てきた僅かばかりの兵と睨みあって、一歩も前へと進まない。
 よく目を凝らしてハイランド軍の前方をみると、なにやら微かに動いているような気もするのだが……いかんせん、距離がありすぎた。敵兵の剣はおろか矢も届かぬようにと後方に設置された救護用の天幕からは、戦場全体を見渡すことはできても、その前方で何が起こっているか等の細かいことは判らない。豆粒よりも小さな人の頭が動いているような気もしたが、はっきりとはしなかった。

 無駄なことと知りながら、は背伸びをして足掻いてみる。
 当然、そんなことで距離は縮まらない。

「……行っちゃおう、かな……?」

 誰に言うでもなくそう呟き、はあたりを見渡した。
 幸いなことに、まだ怪我人は出ていない。
 それに、多少の怪我人であればがいなくともニーナがいる。ニーナの手が離せなくなったとしても、ここは一国の軍の陣営だ。昨今では珍しくなった癒しの力を使える僧侶も、何人か従軍している。

 きょろきょろとあたりを見渡し、は忍び笑う。
 それから心の中でニーナに詫びて、トランバンへと向い走り出した。