可能な限り音を立てないように、とは気をつけながらハーブティーを淹れていたのだが、やはり物音はしていたらしい。
 台所へと起きだしてきたネノフが、お茶の仕度をしているに眉をひそめた。

「いったい何事?」

「あ、起しちゃいましたか?」

「今夜は雨音で、眠りが浅かったから……」

 そう言いながら台所へと入ってくるネノフに、は内心でホッと息をはく。
 頬の熱はすでに冷めているが、もう一度イグラシオと2人きりになると思うと――――――先ほどの『親愛のキス』を思いだしてしまい、どうにも落ち着かなかった。
 が、ネノフが起きだして来たということは、ネノフも久しぶりにイグラシオの顔をみたいだろう。
 当然、ネノフもイグラシオの待つ談話室へと移動することになり、とイグラシオが2人きりという状況にはならない。

「それで、どうしたの? こんな時間に」

 はネノフが2人分用意されたティーカップに眉をひそめているのに気が付き、その理由を話した。

「イグラシオさんが来ているんです」

「こんな時間に?」

 ネノフはの言葉に瞬き、またすぐに眉をひそめた。

「何かあったの?」

「いえ、そういう訳じゃなくて……」

 そういえば、イグラシオが無理矢理時間を作ってまで真夜中孤児院へとやって来たのは、自分を気にかけてくれてのことだった。
 それを思い出し、の冷めたはずの頬が急速に熱を持つ。
 イグラシオに気にかけられていたことが、嬉しくも申し訳なかった。

「?」

 ぽっと頬を染め、言葉を濁したにネノフは首を傾げる。が、すぐに『まあ、いいか』と気にしないことにした。
 良い知らせであれ、悪い知らせであれ、イグラシオが来ているのなら、なにやら恥らっているに聞くよりも直接本人に聞いた方が早いだろう、と。