が台所へと消えて行ったドアを見つめ、イグラシオは深くため息をもらした。
 燭台の上で揺れる炎に、部屋に一人残されたイグラシオは自己嫌悪に沈む。

 すぐに我に返ったから良かったが、を抱きしめた瞬間、確かに欲望を自覚した。

 柔らかい女の身体とぬくもりに、誘われた。
 腕の中に閉じ込めた身体と、その白い首筋に唇を落とした。
 意図せず視界に飛び込んできたはずではあったが、視界に捉えた素肌を自分の目は無自覚のまま舐めるように観察していた。でなければ、一瞬視界に入っただけの胸元に小さなホクロを見つけることなど不可能だったろう。

 あの瞬間、確かに自分は欲望に突き動かされていたのだ。

 髭が痛いというに乗って、『ふざけただけ』というポーズと取ることに成功はしたが――――――今夜、このままの側にいることは躊躇われた。

 は街の商売女とは違う。
 疲れたから、溜まっているからといって、軽い気持ちで癒しを求めて良い相手ではない。
 純朴なに割り切った関係など望めるはずもなかったし、イグラシオとしても『妹』に手を出すほど飢えてはいない。

(……妹のようなもの、か)

 以前、自分が口にした単語に、イグラシオは自嘲の笑みを浮かべた。
 同じ『妹』であっても、ビータやエプサイランを相手に自分が『反応』するとは思えない。あの少女達を相手に考えるのならば、『妹』という単語以上にしっくりと当てはまる物はなかった。
 が、それをに当てはめると――――――恐ろしく安定の悪い『例』だ。『妹』という単語は。

「……台所に追い払って、正解だな」

 視線を壁にかけられた雨具へと向けて、イグラシオは独り言つ。
 あのままを側に置いておけば、自分がに何をしていたかわからない。は気が付いていなかったようだが、自分の指先が夜着の合わせへと進入しようとしていたのを、イグラシオは知っている。自分の事ながらあまりの手の早さに辟易し――――――


 イグラシオは壁にかけられた雨具へと手を伸ばした。