(女神アステアよ、私の手をあなたに捧げます。だから……)

 具体的に、何をどうすれば『奇跡』が扱えるのかは解らなかった。
 が、には普通では難しい『女神の存在を疑わない』事だけは呼吸をするのと同じぐらい簡単にできる。

 目を閉じ、一心に祈るは――――――鼓膜を介さずに響く『苦笑』を『拾い』とった。



――――――私は本来、快癒は司っていないのですけど……――――――



 ぽっと胸に浮かんだ柔らかく響く苦笑交じりの声音に、は安堵する。
 聞き覚えのあるその声は、『レジェンドラ大陸』にいる『女神』の物だった。
 ちらりと声優の声などとは思ったが、さすがに罰当たりな気がして思考から追い出す。
 今はただ、目論みが成功した事を喜びたい。



――――――このぐらいの怪我ならば、私にも癒してあげられます――――――



 自嘲する女神の声に暖かな気配に包まれるのを感じて、はそれに身を任せる。
 母の腕の中とは、こんな感じだったのだろうか? と遠い記憶を探り、は女神の懐に抱かれた。

 女神に捧げた両手が熱い。

 温かいよりは熱い。熱いがそれは恐怖を感じるものではなく、やはり温かいという表現がしっくりくる気もした。
 快癒を得意としないらしい女神に祈ったのは申し訳ない気もしたが、が『存在を知っている』のは、女神アステアと邪神マドルクだけだ。
 には、女神アステアに縋るより他にない。

 温かい存在に身を委ねながら、の唇には知らず安堵の微笑みが浮かび上がった。