「……あれ?」
薄汚れた川底になんとも心惹かれる色を見つけ、ユエルはそれを拾い上げた。
ユエルの掌に掬い上げられたそれは、触った感触から言えば金属の塊だろう。ヘドロがこびり着いているため、目で見ただけでは断言できない。
ユエルは小首を傾げると、手にした泥の塊を再び水の中へと沈めた。2度3度と軽く漱ぎ、まとわり付いた泥を落とす。だんだんと見えてきた泥の中身は、やはり金属だった。薄汚れた金色と中央に若葉色の石が嵌められている。正体の見えてきた金属に、ユエルはさらに川の水で泥を洗い落とした。川底のヘドロが細部に潜り込んでしまっているため、一つの塊となっていた金属片から細い金色の鎖が姿を見せる。ということは、これは首飾りかと金属の正体が判った所でユエルはそれを水から上げた。
重力に従って下へと落ちる水に攫われ、まだ残っていた泥が一緒に川の中へと帰っていく。最後に残った金の首飾りを上着で軽く拭くと、ユエルは改めて自分の感心を惹いた輝きと対面した。
それは、繊細な金の装飾が施された古い首飾りだった。
ユエルは人間の女達が身につける装飾品になど興味はなかったが、手にした金の首飾りが恐ろしく価値のある物だとは判る。少なくとも、どぶ川に投げ捨てて良い物ではないはずだ。
とはいえ、首飾りがユエルの興味を惹いたのはその繊細な細工ではない。
まだ少し泥が残ってはいるが、金の装飾――――――その中央にはめ込まれた若葉色の輝きが、ユエルの心を掴んで放さなかった。
「綺麗……」
いったい何という石だろうか。
ユエルは無意識に若葉色の石を指で磨き、その輝きに目を奪われた。
萌ゆる若葉の輝き。
生命の輝きそのものを讃えたような緑。
「……?」
ユエルがじっと石を見つめていると、一瞬だけ石の奥が風を受けた木の葉のようにざわめいた。――――――そんな気がする。
ユエルは気のせいか、と首を傾げて若葉色の輝きを見つめた。
金の台座にはめ込まれた石は、ただの石であるはずなのに――――――気のせいか、ユエルには息吹きのような物が感じられる。
懐かしい故郷と同じ、強い生命の息吹きを。
とはいえ、相手はただの石だ。そんなはずはない。
そうは思うのだが、ユエルは石から目を離す事ができず、じっと若葉色の輝きを見つめた。
「……?」
不意に、脳裏で。
もしくは、ここではないどこかで。
悲しくも切なく、誰かを呼ぶ鳴き声が聞こえた。
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(2009.12.23)
(2010.02.01UP)