追われている身ではまさか火を起こすこともできず、森を抜けた窪みに岩影を見つけ、ネスティたちは夜風を凌いでいた。
ネスティの隣ではレシィが丸くなって眠っており、その向かい側にはいつでも立てるようにと、座りながら仮眠を取るケイナがいる。その隣では疲れ果てたトリスとアメルがほとんど意識を失うような形で眠っていた。
仮眠を取れ、といった覚えはあるが、本気で寝ろといった覚えはない。これでは、いざ敵が追い付いてきた時に行動が遅れてしまう。如何にのんきなトリスとはいえ、それは解っているはずなのだが――――――眠りこけてしまっているのも、無理はない。レルムの村から現在身を隠している岩影までは、かなりの距離がある。その距離を、ほとんど休むこと無く全力疾走してきたのだから、街育ちのトリスが疲れない方がおかしい。同じく街育ちのネスティが倒れずにいられるのは、使命感に支えられているにすぎない。ここが絶対に安全だと言える場所であったなら、自分でさえも正体なく眠りこんでいるだろう。それほど自分たちは疲れている。その自覚はネスティにもあった。
土を踏む微かな足音に、ネスティは顔をあげる。
一番体力に余裕のあったフォルテが、見回りから戻ってきた。
「……この辺りにはまだ、連中はいないみたいだ。
朝までゆっくり……とはいかないが、俺たちもいくらか休むことはできるぜ」
「そうですか……」
仮眠を取っている女性たちに気を使い、潜められたフォルテの声に、ネスティも声を潜めて答える。
ネスティが視線をフォルテからトリスに移すと、つられたように視線を追ったフォルテが少女二人の身体の一点を見て、目を細めた。
「なんだ? 寝る時まで手を繋いでんのか?」
並んで眠るトリスとアメルの手は、いまだに繋がれたままだ。
村を出るさいにトリスがアメルを引っ張るために掴んだものが、一応の休憩地点に辿り着いた今も離されてはいない。
それは緊張のためか、興奮のためか、心細さから来るものかは、フォルテにもネスティにも解らなかった。ただ、気を失う直前のトリスが言うことには――――――
「どうしても離れないそうですよ。
まったく、いつまでも子どものような真似をされていては、アメルも……」
「やっかみなさんなよ」
フォルテの軽い口調に、ネスティはムッと眉を寄せる。
フォルテの言うようにやっかんでいるつもりはない。
ただ、トリスのお目付役として、兄弟子として、彼女が周りに迷惑をかけないよう気にかけているだけだ。
眉を寄せたネスティの視線に、フォルテはわざとらしく肩を竦める。その頬に苦笑が浮かんでいるのを見て取り、ネスティは視線をフォルテから夜空に浮かんだ月へと移した。
地平線へと沈みかけている月に、夜明けが近い事を知る。
空はまだ、暗い。
あと2・3時間は休憩がとれるだろうか。
夜明けを待って、行動を再開しよう。
とにかく、まずは王都へと逃げ込まなければ。
その後の身の振りは――――――不本意ながら、派閥の先輩方に頼るしかない。先輩方にもそれぞれの仕事があり、問題となるであろう『アメル』を連れ込むには抵抗があったが。
今は他の手段を選んでいる余裕がない。
他ならぬ、トリスのためには。
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(2006.06.09UP)
やっかむ=嫉妬する
一応、方言かな? と思ったので辞書で調べてみたらのっていたので採用。
フォルテならいいそうだし。
ただ、『やっかむ』は辞書にのっていたけど、『やっかんでいない』はどうだろ(笑)方言かも? 『やっかんで』だと『約款で』って変換でてきたし。『約款』だと、全然違う意味と言葉になります。
日本語って、難しい。
ネスの動かしやすさは異常。
フォルテとケイナは楽しく動いてくれますが、ネスの行動の9割りはトリスって感じで、書きやすい。
逆に思考の9割りがルヴァイド様なイオスは書き難いですが。
途中まで、トリスの護衛獣の存在をすっかり忘れていたのは秘密。
あとから付け足したのも秘密。