庭園を出て行く少年少女の旅人を遠目に見守り、パッフェルは小首を傾げる。
その仕種が、茂みの中に身を隠す者への合図となった。
茂みの中に潜んだパッフェルの上司は、茂みから姿を現わすこと無く言葉を発する。
「……どうかな?」
謎の少年の、行き先を操れそうか、否か。
茂みから出てくる気配のない上司に、パッフェルも振り返らないままに答えた。
「微妙ですねー」
「微妙?」
誘導は失敗したのか? と僅かに込められた非難の響きに、パッフェルは困ったように眉を寄せる。
「いくらあたしでも、初対面の相手に『絶対南へ行け』なんて、云えませんよ〜」
それこそ、妖しさ大爆発ですし。と続けてパッフェルは唇に手を当てる。
そこまで妖しさを露呈させるぐらいならば、町中であれ、どこであれ、派閥の召喚師や城の兵士を借りてきて、無理矢理3人の身柄を『確保』すれば良い。わざわざ自分の副業を利用して近付けさせなくとも、本業で対応できる話だ。
そう揶揄して。
「それと、少しだけ情報に追加が。
あのクレスメントの末裔さんは、昔聖王国の北の街に住んでいたそうです。
トリスさんもそこに住んでいたから、まずはそこに向かうかもしれないって」
寄りたい故郷があるなんて、羨ましいですね。と軽口を叩きながらパッフェルは『誘導』が成功しなかった理由を上司に報告した。
「北の街、か……。あながち嘘でもなさそうだね」
考え始めた上司の気配を感じ、パッフェルは急かすこと無く屋台を片付けはじめる。そろそろ日が陰ってくる時間だ。夕方になれば、人々の憩いの場である庭園であっても、お客は減る。早々に店をたたみ、次のバイト先へと向かいたい。
「……君に事実関係の究明を命ずる。
気付かれないよう彼の後を追い、可能であれば無傷で派閥に招待してくれ」
屋台を片づけながら、パッフェルはこっそりと肩を落とす。
本業も大切だが、副業も大切だった。
追跡などと長く休みを取る必要のある仕事は、あまりしたくない。長く休みをとっていては、副業に支障をきたし、首を切られてしまう。
「ううぅ〜、わかりました〜」
そう、元気なく答えたパッフェルに、上司はくすりと忍び笑いを漏らした。
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(2008.04.18UP)