彼女は、良くも悪くも、人を惹き付ける。

 それは、黒の旅団総司令官の忠犬と揶揄される特務隊隊長においても、例外ではない。






 ふわり、ふわりと舞い落ちる雪に誘われ、イオスはふと顔を上げた。
 眼前に聳え立つものは、顧問召喚師の館。
 常ならば、余程の理由がないかぎり近付かない―――近付きたくもない―――場所だ。が、今夜ばかりはそうも言ってはいられない。館の住民達はそろいも揃ってみないけ好かない連中ばかりであったが、上司にとっては必ずしもそうではない。彼が実の弟のように可愛がっている少年がそうだ。
 上司は、口にこそ出さなかったが――――――本日この館にて行われた召喚術の結果を、心待ちにしている。その結果如何で、少年の旅立ちが決まるという。
 イオスにとっては興味のない話―――むしろ、あの少年が上司の側を離れることは清々こそすれ、心配などする謂れはない―――であったが、上司がそれを気にかけているのだ。部下として、彼が口に出す前に、その結果を調べてくるのは、当然であろう。
 内心、面白くはないが。

 イオスは、ふんっと鼻を鳴らしてから、視線を館の門へ落とし――――――眉を寄せた。
 目の前の館に対し、違和感がある。
 今、なにか。
 確かに、見慣れないモノが、視界に入った気がした。

「……?」

 違和感の正体を確かめようと、イオスが再び館を見上げる。
 その正体はすぐに見つかった。

「……女の子」

 イオスが知る限り、男所帯の館。
 その3階にある窓辺に、少女が一人佇んでいるのが見えた。

「珍しいな。この館に、女の子がいるなんて……」

 遠目ではあるが、歳は館に住む顧問召喚師の養子とそう変わらないだろう。若い娘だ。
 髪は黒い。
 逆光であるため、瞳の色までは判らなかったが――――――その少女の顔に、イオスはしばし見蕩れた。
 少女の可愛らしい容貌は、確かに男の目を惹くものではあったが。
 イオスが惹かれたものは、その容姿ではない。


 イオスが惹かれたものは、その――――――