「お世話になりました」

 ぺこりと漆黒の髪を揺らして、がアグラバインに頭を下げる。
 本来ならば、達一行の主人であるマグナの役割であったが……「早朝に出発しよう」と言った彼は未だに寝ぼけている。眠い目を擦りながらもハサハがマグナの手を握っているので、村の入り口まで歩いてくる道すがら、マグナがつまずく度には驚かされた。

 大地はまだ朝靄に包まれている。
 白く霞む視界にアグラバインと夜警のため村の入り口に立っていたリューグの赤毛をとらえ、は微笑んだ。

「それでは……道中気を付けてな」

「だいじょうぶ、だよ。もう間違えないから」

 あくびをかみ殺しながらも笑ってみせるマグナに、アグラバインが苦笑を浮かべた。

「それと、これは弁当じゃ。あとで食べるといい」

「あ、ありがとうございます」

 ふらふらと体が揺れているマグナのかわりに、アグラバインはに布包みを手渡す。
 大、中、小、と3つある包みは3人分。
 がマグナを起こしている間、台所でアグラバインが何かをしている音がしたが……これを作っていたのだろう。てっきり自分の朝ご飯……もしくはリューグへの差し入れを作っているのかと思っていたが。

 思わぬ心遣いに、は再び頭を下げた。
 その横。リューグが小さな声でマグナに話し掛ける。

「……おまえの妹、みつかるといいな」

「ああ、ありがとう」

「妹が見つかったら、また寄れよ」

 ――――――今度こそ勝ってやる、と不敵な笑みを浮かべるリューグに、マグナはようやく覚醒した。眉を寄せ、心底嫌そうな表情を作ってから……やんわりと苦笑を浮かべる。
 剣を振るうことは、実はそんなに好きではない。
 できることならば争いなど避けたいし、許されるのならば敵前逃亡だって躊躇わない。誰かの血を流すよりも、日の当たる部屋で昼寝をしたい。
 リューグと手合わせをするのは確かに楽しかったが……それよりも、一緒に川遊びをすることの方に魅力を感じる。
 なんとも微妙な表情を浮かべるマグナに、リューグは笑いをかみ殺した。

 リューグにとって、マグナという少年は嫌いなタイプではない。
 裏表がなく、感情をすぐに表に浮かべる様には好感が持てた。
 自分と歳の近い、兄とはまた違ったタイプの少年。

 できることならば……今後も交流を持ちたい。

 マグナの強さは目標にもなるし、いずれは好敵手にだってなれる。――――――その自信があった。






「おじいちゃん、おいもおいしかったよ」

 くいくいっと服の裾を引っ張るハサハに、アグラバインは腰をおとして視線を会わせる。
 短い黒髪に手をのせると、ハサハは嬉しそうに微笑んだ。

「それはよかった。また来るがいい。
 うんと食べさせてやるぞ」

「うんっ!」

 満面の笑顔を浮かべ、ハサハが体全体でアグラバインに抱き着く。
 一日と少しの付き合いであったが、ハサハはすっかりアグラバインに懐いていた。
 祖父と孫娘のような二人のやり取りに和みつつ、マグナの荷物に受け取った弁当を入れようとが後ろにまわる――――――と、くいっと髪を引っ張られた。

 が振り返ると、少し不機嫌そうな顔をしたリューグがいる。
 なんとなく解ってきた、リューグの表情。
 初対面であったならば、間違いなくすくみ上がってしまうような顔をしているが……これは、『照れ隠し』の表情だった。

「飯、うまかった。
 召喚術もなかなかだし、……ちゃんと役にたってんじゃねぇのか」

 それだけを言うと、リューグは顔を反らした。
 は一瞬何を言われたのか理解できず、きょとんと瞬いたが。
 先日こぼした愚痴について、リューグなりに励ましてくれているのだろうと思い当たり、ほんりと頬を染める。

 それは、本当にささやかな気づかいであったが。

 にとって、なによりも暖かな言葉に感じられた。
 ふんわりと胸に広がる暖かな想いに、は花がほころぶように微笑む。

「ありがとう、ございます」

 その微笑みを横目にとらえたリューグは、何故か急に背中を向けた。

「ってか、おまえの主人には助けなんかいらねーだろ。
 召喚師のくせに大剣なんて振り回すし。
 逆におまえがこき使ってやれっ!」

 少しだけ声の上がったリューグに、は不思議そうに首を傾げた。が、すぐにその態度もリューグ流の照れ隠しなのだろう、と自分を納得させる。
 本当に、初対面の印象とは随分変わった。

 不器用で優しくて、格好良くて……可愛い人。

 リューグの粗雑な態度にもすっかり慣れたは、小さく声に出して笑った。






  

 後書きの類似品。

 やっとこさ、01話『聖女の村』終了でございます。
 長かったですね……いや、本当に。
 今だかつて、ここまでレルムの村に力をいれた夢小説があっただろうか。(……や、そんなアホはいないだろう)ついでに、今だかつて、芋にこだわった夢小説があっただろうか(あるんじゃないか? 普通に) はい、自己満足ツッコミです。
 ほのぼのしてますが、ゲームの方では2話の夜、黒の旅団に壊滅させられちゃいますね。レルムは。ここの夢小説の時間で言えば……現時点が当日の早朝ってことになります。(いやな話しをさらっと……)

 1話で書きたかったのは、リューグとマグナの半裸(爆)ではなく、アメルと今回のルヴァイドネタだったりします。ええ、実は。ルヴァイドさま好きだ(いや、今回はそれ関係ないし)

 次回のアップはイオスの閑話。
 その間に02話で新たに出てくる人たちの口調確認のため、ゲームを始めるやも知れません(笑)今回ロッカの口調がかなり適当ですが……彼は使い分けがあるので、微妙。ゲームを改めてやると……うちのリューグは幾分穏やかな性格に感じられます(笑) あんまりゲームでの性格から離れないように気をつかっているつもりなのですが……恐るべし、妄想フィルター(笑)

(2005.01.18UP)
(2008.02.29 加筆修正)