「なんじゃ、もう食べないのか?」

「あ、はい。もうお腹いっぱいで……」

 そっとため息をつきスプーンを置いたに、アグラバインは眉を寄せた。
 『お腹いっぱい』とは言っているが……は自分の半分も食べていない。体格差を考えれば当然のことかもしれないが、目の前で育ち盛りの少年二人が食べるさまを見ていると、……どうしても少なく見えてしまう。昨夜は小食だったハサハも、今夜はマグナとリューグと競うように料理を食べている。
 歩き疲れたのとは違い、働いたあとの食事は格別なのだろう。
 食事に対する意気込みが、まるで違う。

「食べれる時に食べておかないと、旅の途中で倒れてしまうぞ」

「そうそう、昨日みたいな青白い顔じゃ心配だし」

 アグラバインの忠告に続き、手を休めることなく料理を口に運びながらマグナが付け足す。その横で、ハサハがこくこくと頷いた――――――頬張った料理をこぼさないように、しっかりと口を押さえて。

「……いっぱい食べているつもりなんですが……」

 3人の注意を受けて、はそう言った意味でも心配させていたのだなと気付き、もう少し食べようと一度は置いたスプーンに手を伸ばした。

 本日の夕食は作、デグレア風川魚料理。
 何故が料理をしたかと言うと……やはり宿を借りるのだから、手伝いをするのは当然だという心情と、川魚の出所にある。

 午後、畑仕事を手伝っている時に訪ねて来た女性は、の予想どおり人形を抱いた少女の母親だった。
 女の子から怪我を治してもらった経緯を聞き、アグラバインの所に泊まっているのなら……と、捕れたての川魚を達のために持って来てくれたらしい。
 母親がと直接話をすることはなかったが、にはその心遣いが嬉しかった。
 ささやかな行為に対する、ささやかなお礼。
 にしてみれば、思いがけない御褒美をもらったような気分で、何よりも――――――マグナとハサハが『美味しい』と言ってくれるのが嬉しい。

「って言うか、っていつも少ししか食べてないよな」

「テメェは食いすぎだろ、明らかに」

「いいだろ? 美味しいんだから」

「確かに……不味くはないな」

 さり気なくツッコミを入れつつ、リューグはフォークを最後の切り身に伸ばす。
 カチンっと音をたて、マグナとリューグのフォークがぶつかった。

 一瞬の沈黙と、睨み合い。

 フォークによる静かな空中戦の横。
 ハサハがさっと手を伸ばす。

「けんか、りょうせいばい」

 睨み合う二人を後目に最後の切り身を横からさらったハサハは、満面の笑みを浮かべて戦利品を口へと運んだ。






  

 後書きの類似品。

 久しぶりのアップ。1話は次で終りです。

 ほのぼのレルム生活……って前回も言っていた気がしますが(笑)本当にほのぼのしてますね。
名前がないわりに結構でてきた女の子――――がもっている人形。『赤い服の人形』ってアイテムたしかありましたよね、ゲーム中に(笑)召喚術に使うかは謎ですが、こんな所で妙な遊びが入っています。
 あと、今回絵はないのですが……ハサハが洋服着てます。レアですよ、レア(笑) 絵はないですが。たぶん、アメルが小さいころ着ていて、大きくなっても気に入っていたので、近所の子にお下がりとしてあげずにとって置いたのでしょう……が着てる服はアメルの服(という名の誰かのお下がりですが)
 私が小さいころはまだこの『おさがり』って習慣があったのですが……現代っこにはないんだろうな(苦笑)ちなみに、自分が着なくなった洋服を近所や親戚の年少者にあげる習慣(?)です。

 あと、箱入りマグナ(笑)
 微妙に世間知らずな気がします。

 さ、次回はロッカ登場〜(たぶん)

(2005.01.08UP)
(2008.02.29 加筆修正)