風を通すために解かれた、漆黒の髪が風に踊る。
 顔にかかる髪をかきあげて、は洗濯籠に手を入れた。

 結局、4人揃ってずぶ濡れになったあと。
 はアメルの服を。マグナはリューグの服を借りられることになり、濡れた服は簡単に洗濯をした。
 幸いなことに、今日は天気が良い。
 午後から洗濯物を干したとしても、夕方には乾いているだろう。

「よしっ!」

 最後の一枚を干し、叩いてシワを伸ばす。
 陽の光を浴び、白く輝いて見える襦袢に顔を近付けて最終チェックをしたが、シミはない。
 普段洗いなれない着物についた泥も、綺麗に落ちていた。

「これなら、夕方までにちゃんと乾くよね」

 その仕上がりに満足し、は頬を緩める。

 ハサハはいつものようにマグナにべったりで。
 マグナは仕事を手伝うと、アグラバインと畑にいる。
 周りには誰もいない。

 暖かな陽光と、風に誘われて。

 はこっそりと歌を口ずさむ。

 甘く、やさしくたゆとう調べ。
 ハサハお気に入りの子守唄。

 は洗濯籠を抱えてあたりを見渡した。

 風に泳いでいるのは、先ほどまで自分達が来ていた服。
 旅の途中とあれば、毎日服を洗う事はできない。……かえって、今日川に落ちたのは良いことだったかもしれない。

 おかげで洗濯ができた。

 なにしろ、明日は王都ゼラムに行くのだ。
 せっかくの兄妹再会だと言うのに、汗臭さが感動に水を差さないとも言い切れない。
 それではマグナにとっても、その妹にとっても、あんまりだ。

 持ち主を何度もかえた年代物であろうズボンの、つぎはぎを利用して作られたポケットに洗濯バサミを入れ、は洗濯籠を片付けようと家を振り返る。
 ふっと目に入ったのは、厚いカーテンの閉められた部屋。

 陽の光を遮るその部屋に、昼食を済ませたリューグが眠っている。

 元々は仮眠と食事を取るために家に帰ってきたらしいので、今日の睡眠時間は少なくしかとれない。
 マグナと稽古をし、そのあと子供に捕まり……かえって疲れたのではないだろうか。

 少しだけ気の毒に思いながら、は洗濯籠を片付けるため、勝手口から家の中に入った。