「おねえちゃん、お着がえおわった?」

 が着替えを終え、髪をまとめたタイミングをはかったかのように、ハサハがドアを開けた。
 ハサハはひょっこりと顔だけを覗かせて、の身支度が終わっているのを確認すると、ようやく部屋に入る。

「終わったよ」

 と答えながらベッドを整えるの横を通りすぎ、ハサハは枕元に置かれた自分の着物を持ち上げた。

「おねえちゃん」

 くいくいっと背中を向けているの服をひっぱり催促。そのままの作業が終わるのを黙って待つ。

「はい、終わり。次は……ハサハちゃんね」

 時計捜索のために乱れたシーツを伸ばして作業は終了。
 にっこりと笑って振り返るに、ハサハは嬉しそうに何度も頷き、自分の着物を手渡した。

「ハサハちゃん、自分でちゃんと着れたよね?」

 膝をつき目線をあわせたに、ハサハは両手を広げて『早く着せて』と催促をする。そんな仕種に可愛いなぁっと思いつつ、は苦笑をもらした。

 ハサハはすっかり、朝のこのやり取りが気に入っているらしい。

 本当ならば、がハサハに着付けてやる必要はない。
 召喚された時、ハサハははじめから着物をきていた。
 のいた『名も無き世界』では普段から着物を着る者はほとんどいなかったが、シルターンではそれが普通らしい。
 幼いとはいえ、ハサハも一人で着物を着ることができた。
 が、が手伝ううちに――――――すっかりソレが習慣になり、今ではが着付けるまで、ハサハは自分から着替えようとはしない。
 に着付けてもらう方が、楽で綺麗にできるから。と本人はいっているが……ハサハのそうした甘えは、妹ができたようで、としても嬉しい。

 嬉しいが、いつかは改めなければと思う。
 あくまで『いつか』だったが。
 
「おねえちゃんに着せてもらう方が、ハサハはすき」

 白いふさふさの尻尾を振りながら、ハサハは幸せそうに微笑んだ。
 最初のうちこその手付きはぎこちなかったが、今はハサハが一人で着るよりも綺麗に早く着付けてくれる。
 それも確かに、毎日に着付けをねだる理由の一つだった。

 けれど、本当の理由は別にある。

 前屈みで襟元をそろえてくれる、頭しか見えない時。
 白い首筋に流れる、優しい匂いのする漆黒の髪。
 きゅっと後ろで帯を結んでくれる、微妙な力加減。
 髪を梳いてくれる時、背中にふれる柔らかい感触。

 シルターンの人間と同じ特徴を持つから感じる、既視感。
 『おかあさん』。

「はい、おしまい」

 手慣れた仕種できゅっと帯をしめ、は軽くハサハの髪を梳く。
 ハサハの髪はこしが強く、まっすぐに流れる。
 少し外に向かう癖があるようだが、櫛通りは良い。
 毛先で絡まる事もなく、寝癖もつきにくかった。

「ありがとう」

 顔だけを動かして、ハサハがを見上げる。
 その頭を軽く撫でてから、は櫛を荷物の中にしまった。

「どういたしまして。
 さあ、アグラバインさんを手伝いに行こうか?」

「うん」