窓からさし込む光に、はぼんやりと目を覚ました。
 目の前にあるのは壁。
 半分覚醒した意識のなかで、今がいったい何時ごろかのか、っと確認するためには寝返りを打った。

「……あ、れ?」

 隣にある無人のベッドに、は眉を寄せる。
 いつもなら、マグナとハサハが眠っているはずだった。
 それから、目覚まし時計の音を聞いた記憶がないことに気がついて、は体を起こす。

 枕元を探すが、自分の時計は見当たらない。

「あれ? あれれ?」

 しだいに覚醒してきた意識で、枕元を探るが見つからない。
 枕を持ち上げ、ベッドのすみに手を入れ、シーツをめくり、床を見渡して……それから窓の外を見た。

「……うそ」

 呆然と見上げる。
 太陽はすでに……真上近くまで来ていた。

「ね、寝過ごしちゃった……?」

 窓から覗く太陽の位置を確認して、はぽつりと呟く。
 それから慌てて時計捜索を再開した。
 太陽の位置をみるかぎり、自分が寝過ごしたであろうことは疑いようもないが、自分はマグナに仕える身。主人であるマグナよりも遅くまで寝ている訳にはいかない。

「目覚まし、鳴らなかったよね?」

 どうか思い違いであって欲しい、と祈る気持ちで枕を持ち上げ、シーツをめくってアラームをセットしたはずの腕時計を探す。

 ――――――が、見つからない。

 隣のベッドで寝ていたはずの、マグナとハサハが部屋に戻って来る気配もない。
 目覚めてすぐに水を飲みに部屋でた、と思いたかったが、どうやらそうはいかないらしい。が時計を探し始めて、結構な時間がたっているはずだった。

「時計、どこにいっちゃったの?
 ……ベッドの下に落ちてないよね?」

 誰に聞かせるでもなく、不安が言葉を紡ぐ。
 ひょいっとベッドの下を覗くが、『名も無き世界』からが持ち込んだ時計は落ちていなかった。

 見つからない時計と、空高くある太陽に、焦燥感だけがの胸を占める。

 自分が寝過ごしたせいで、マグナに迷惑をかけてはいないだろうか。
 ハサハの姿も見えないことから、もしくは呆れて置いていかれたのか。

 のんびりとしていて優しいマグナに限って、そんなことはありえないのだが。『寝過ごしてしまった』という罪悪感のあるには、わかっていても焦りが生まれた。
 ベッドの上にぺたりと座り込み、枕を抱きしめる。
 目を閉じて深呼吸をひとつ。

(確か、昨日はハサハちゃんの髪をとかして、御主人様が就寝して、
 ゼラムにお昼にはつく時間に起きよう、って目覚ましをセットして……)

 その時計を枕元において、自分も眠ったはずだ――――――っとそこまで思い出して、は自分の抱きしめている枕を見つめた。

「枕カバーに挟まって……いるわけないよね」

 念のため、枕を逆さに持って上下に振る。
 収穫はない。

 ――――――っと、声が聞こえた。

 聞き覚えのある声。
 今この場にいない、常なら今頃ようやく起き出して来る人物の声。
 マグナの声が部屋の外……というよりも、家の外から聞こえた。

「御主人様の声。……と?」

 マグナの声と、もうひとつ違う音。

 時計捜索を一旦うちきり、まずは寝過ごした事を主人に詫びようと、はベッドを降りて窓辺に近付く。
 薄めのカーテンをあけ、窓からこぼれる陽光に一瞬だけは目を細めた。