『予感』にマグナが目を開く。

 刹那。

 『予感』は見事に的中した。

 げしっと小さな足が、マグナの顔面を襲う。
 元々きわどい角度にいたらしいマグナは、その小さな力に押されてベッドからすべり落ちる。咄嗟に体制をたもとうとシーツを掴み……その努力は無駄に終わった。盛大な音を響かせて床に落ちたマグナの上に、シーツごとハサハが落ちて来て、二次災害を引き起こしただけ、素直に落ちたほうがましだったろう。
 頭を打ち、腹部にハサハの頭突きをくらったマグナは、目に涙を浮かべながら見なれぬ天井を見上げた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

「…………おに……いちゃん?」

 自分の頭をさすり、落下のショックで目を覚ましたハサハの頭を撫でる。
 まだ眠たそうに目をこするハサハが、少しだけ恨めしそうにマグナを見上げていた。

「ごめん、ハサハ」

「……うん」

 ゆらり、ゆらりとハサハの白い尾が揺れる。
 まだ半分夢の世界といったところか。
 下がる瞼を必死で開こうと、ハサハが小さな手で頬を叩く。

「ハサハはまだ寝てていいよ」

 寝ぼけ眼で自分の頬を叩く少女をマグナがベッドに戻すと、ハサハぷるぷると髪と耳を揺らして首を振った。

「おにいちゃんが起きるなら、ハサハも起きる」

 浅い眠りの中で夢をみていたところに頬に衝撃を受けて目覚めたマグナと違い、ハサハの意識はいまだにぼんやりとしている。今ならまだ十分に寝なおせるはずだった。
 が、それでも頑として頬を叩くのを止めないハサハに、マグナは苦笑を浮かべて体を起こした。

「今……何時ごろかな」

 どうやら普段ならば絶対に起きない時間に目が覚めたらしい。
 窓から見える太陽は、あまり馴染みのない位置にあった。
 そんな時間であっても、眠いと感じないのは……昨夜の就寝時間が早かったからだろう。

 う〜んっと背筋を伸ばしたマグナの横で、ハサハがきょろきろとあたりを見渡す。
 そして目当ての物を見つけ、指差した。

「おねえちゃんの……『とけい』」

 隣のベッドで眠るの顔は見えない。
 今の騒ぎでも起きないところを見ると、相当深く眠っているようだ。
 を起こさないように息をひそめて、枕元に置かれた時計を手に取ると、マグナはすぐにハサハの座っているベッドに腰掛ける。

 手に持った時計の文字盤を見て、マグナは眉を寄せた。

 の時計は『名も無き世界』から召喚された時に身につけていた、数少ない彼女の持ち物の一つ。いつも身につけていたので、マグナもそれとなしに使い方を覚えている。
 その『覚えている』範囲の知識で時計をみて、マグナは時計を自分のポケットにしまった。

「……おにいちゃん?」

 不思議そうに首をかしげるハサハに、マグナは声をひそめる。

「今日はに、『お寝坊』させてあげよう」

 楽しそうに笑うマグナに、ハサハはきょとんっと瞬いてから、こくりと頷いた。