「獅子将軍アグラバイン、か……」

 使われていないとはいえ、アメルの部屋を借りることを丁重に断ったは、マグナと同じ部屋で眠ることになった。
 アグラバインの部屋でもなく、客間でもなく、リューグやその兄の部屋でもない、少し大きな部屋にはベッドが2つ。
 その片方にもぐりこみ横になったマグナは、すでに寝る体制である。
 マグナの寝ているベッドとは違う方のベッドに座り、ハサハの髪を梳きながら、とハサハは顔を見合わせた。
 う〜んっとしばらく唸り、諦めたのかマグナが盛大にため息をつく。

「……やっぱり、髭しか覚えてないや」

 まだそのことを考えていたのか、と瞬いてからはハサハの髪を梳くのを再開し、ハサハは気持ち良さそうに目を細めた。

「アグラバイン……アグラバイン……
 時々、レディウスおじさんの話に出てきた人だよな」

 おぼろげな記憶ながら、ねばった成果があったらしい。
 ぼんやりと、『アグラバイン』にかかわる言葉を思い出していた。

「ご主人様は、鷹翼将軍レディウスを知っているんですか?」

「俺が養父さんに拾われて、わりとすぐに反逆罪で処刑されたよ。
 兄さ……ルヴァイドに稽古をつけてるのを何度か見かけたかな」

 さっきからずっと『兄さん』と呼んでいたことを思い出し、マグナが訂正する。
 別に誰も聞きとがめはしないのだが、シスコンの上にブラコンというのは流石に気恥ずかしい。兄と呼ぶルヴァイドも、妹のトリスも……ついでに養父であるレイムのことも大好きだ。が、それについてからかわれたくはない。自分ことよりも、兄や妹を馬鹿にされているようで、良い気分はしない。がそんなことをするはずもないのだが。

「あ、時々お菓子をくれたっけ。
 ……とても謀反を起こす人には見えなかったよ。
 なんて言ったって、あのルヴァイドの父親だったわけだし……」

 っと、そこまで言って口をつむぐ。
 あまり人に言いふらす内容ではなかった。

「そうですね、ルヴァイドさんを見てると、誤解だって……思えますよね」

?」

 知らないはずのことを、知っているらしいにマグナは眉を寄せた。
 当時を知るものならともかく、最近召喚されたの耳に、ルヴァイドの父親の話が入るのはおかしい。
 誰かが意図的に話さなければ、知り得ない。
 それとも努力家で勉強家ののこと。
 デグレアのことを学ぶうちに、知ってしまったのだろうか。

「以前、ルヴァイドさんに聞いたんです。
 日の当たらない、お墓の前で」

 ハサハの髪を梳きおわり、が自分の髪を解く。
 髪を梳かれている間気持ちよさそうに目を細めていたハサハは、今度はうれしそうにベッドを飛び降りて、マグナのベッドにもぐりこんだ。すでにそれが日常になっているマグナもなれたもので、身体を起こし毛布をめくってハサハを受け入れている。

「……でも、どうしてそんなに気にしているんですか?」

 毛先からそっと髪を梳き始めたを眺めつつ、マグナがハサハの頭を撫でる。

「髭が気になるから」

 どうもずっとアグラバインのことを気にしているらしいマグナに、は首をかしげた。
 そのまま沈黙し、マグナの言葉を待つ。

「ごま化されてくれない?」

「話せないことですか?」

「アグラバインさん、自分を木こりって言ってたけど、本当にそうかな?」

 うとうととまどろむハサハの瞼を撫で、眠りに落ちたのを確認してからマグナも横になる。

「デグレアのこと、妙に聞きたがっていたよな……」

 優しく柔和な眼差しにごま化されそうになったが、何度か探るような目つきでの顔を見ていた。
 ということは、気がつかない間に自分もそういう目で見られていたのだろう。

「でも、獅子将軍は戦死した、と記録には……」

「うーん、そうなんだよな。
 髭のインパクトが強くて、ついでに名前が同じだろ?
 そこで引っかかってるだけだと良いんだけど」

 温かい湯を借りて、たくさん夕食をご馳走になり、歩きづめの日中の疲れがでたのだろう。
 呟いてから、マグナが大きくあくび。
 それから程なく、安らかな寝息が聞こえ始めた。

 髪梳きをおえ、は自分にあてがわれたベッドに横になる。

 瞼が重い。
 自分も相当疲れていたようだ、と自覚して瞼を閉じた。

「……獅子将軍、アグラバイン……」

 マグナはそれを気にしていたが、それ以上に気になることがひとつにはあった。

 マグナもハサハも、すでに日中の疲れから夢の世界である。
 も同じだけの距離を歩いていたのだから、当然疲れている。

 召喚師であるマグナが何故『歩いて』旅を続けるのか。

 それがわからない。
 マグナは普通の召喚師と違い、全ての属性の召喚術を操れる。
 その中には、人を乗せて移動することができる存在もいたはずだし、事実聖王国の西の町には『召喚獣鉄道』という設備もある。
 何故、それらを召喚して旅をしないのか。
 少なくとも、やハサハと歩いて旅をするよりも、早く安全に聖王国に着けるはずだった。

 には、その理由がわからなかった。






  

 後書きの類似品。

 前回アップから一月ぐらい間があいています。
 なんか……だんだん感覚があいてるな、と自覚しつつ、頑張ります。
 あまりに間が開くので、本当は短く切って分割アップしようかと思ったのですが……切りのよいところではどうも短すぎる、とがんばって、結局最後までかいちゃいました(苦笑)
 本来は、ここまでで01話は終了なんですよ。本来は。
 ただ、後の展開で矛盾が生じるので(笑)レルムの村滞在もう1日延長です(笑) ハイ、0話でも同じようなことしてました(笑)

 矛盾といえば……マグナに変な癖つけちゃいました。
 うっかりルヴァイドを「兄さん」とよぶ、アレです(笑) まあ、よし(おい) 18歳マグナが呼んでいるとおもうから違和感があるのであって、アレですが。8歳のマグナが19歳のルヴァイドをそう呼んでいると思えば……「お兄ちゃん」希望かな、むしろ(逝ってこい)

 どうでもいいけど、後半。
 なんだか夫婦っぽく見えるのはきのせいかなぁ(笑)
 なぞの広めの部屋は、たぶん。アメルもしくは双子のどっちかが伴侶を迎えた時のため、こっそりアグラバインが増築した部屋に3000ルヴァイド(謎)

(2004.06.20UP)
(2008.02.15 加筆修正)