森に入ってすぐの場所に、マグナとハサハはいなかった。
探し人がいないというのに、も慣れたもので、すぐにリューグに『日当たりのよい場所』を聞く。望まれるままにリューグが森の中で一番日当たりの良い場所―――昔から村の子供たちが木登りに訪れる場所―――にを案内すると、自分と同じぐらいの年の少年が頬をさすりながら荷物を拾っていた。
その姿を見とめたが、小走りに近付く。
「ご主人様〜」
呼ばれたマグナは声の聞こえた方向に顔を向け、を視界にとらえてにっこりと笑った。
「おかえり、」
「はい、ただいま戻りました」
にっこりと笑いかえし、はマグナの足元……で丸くなって眠っているハサハを起こしにかかる。
「ハサハちゃん、起きて」
軽くハサハの肩を揺するに続き、リューグがゆっくりと歩く。
自分の荷物を広いながらとハサハを見守っていたマグナは、遅れてくるリューグの存在にやっと気がついた。
「あれ?」
首をかしげてリューグを見る。
「あ、宿をかしてくれるお家の方で、リューグさんです」
呼びかけても肩をゆすっても、起きる気配のないハサハを、は諦めて抱き上げることにした。が、寝入った子供というものは重い。それも、寝ている姿勢の子供を持ち上げるのは……少々には無理があった。
どうにかして抱き上げようと奮闘しているの横で、マグナは居心地の悪い視線に晒された。
余所者に対する敵意を隠そうともせずに、自分を探る細められた視線。
リューグにしてみれば、のような年頃の娘に『ご主人様』などと呼ばせている怪しい人物に宿を貸すのだから、その人格の品定めをしているつもりだったが……マグナにしてみればたまったものではない。
ツンツンと棘のありそうな視線は、誰かを彷彿させた。
自分にたいして、決して好意的ではない――――――金髪青年の視線。
イオスに似た敵意を剥き出しにした視線に、マグナはとりあえず愛想笑いを浮かべる。
どんなに敵意をむき出した相手にせよ、マグナにとっては笑顔が基本だった。
「お世話になります」
やや引きつったマグナの声に、リューグは眉を寄せてから目をそらした。
そのまま、眠りこけている少女を抱き上げようと、奮闘しているの隣に腰をおとす。
「…………おまえらに宿を貸すっていったのは、俺のジジイだからな。
礼ならそっちに言っとけ」
愛想笑いを浮かべるマグナにたいして、取り付く島のない感じのリューグ。
マグナはちょっとだけ遠い目をしてから、の荷物を拾いにかかった。
「リューグさん?」
が苦労してハサハを抱き上げようとしている隣で、リューグが難なくハサハを抱き上げる。
「はい、の荷物」
「あ、ありがとうございます」
マグナに後ろから自分の荷物を差し出され、はそれを背負ってから立ちあがった。
それからハサハを受け取ろうとリューグに手を差し出して、拒否される。
「リューグさん?」
不思議そうに首をかしげるを無視して、リューグは動物の形をしたリュックを拾うマグナにハサハを手渡す。
「ほれ。おまえが運べ」
『ご主人様』などと言う、人を使う立場にいる人間だったが、リューグにそれは関係ない。
宿を貸すとはいえ、それだけの関係だ。
リューグがハサハを運んでやるいわれはない。
だからといって、明らかに力不足なに押しつけることはできなかった。
一番力があり、また余裕もありそうなマグナを選んでハサハを押しつけたのも、そういった理由からだったが……はたして『人を使う立場にある人物』がそれを受け入れるか、否か。
自分の荷物を背負い、動物の形をしたリュックを腕に下げたマグナは、にっこりと笑いながらハサハを受け取った。
「ありがとう」
『人を使う立場にある人物』の以外に素朴な反応に、リューグは一瞬だけまたたく。
それから、悪いやつには見えないな……と、少しだけ安心して、向けられた笑顔から顔をそむけた。
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後書きの類似品。
って、内面矛盾のある娘ですね。
こんなに長い時間をかけてオリキャラを書く、ってのは初めてなんですが……動かしやすい反面、内面の矛盾部分が先の展開で不安でもあり。成長してくださいね、ちゃんと。(苦笑)
とりあえず……今回も間があきましたね(遠い目)
まあ、なんとかなるさ。
毎回、中心になるキャラに……萌えながら書いております(待て) ゆえに、しばらくはリューグ萌えです。(何故) ちなみに、デグレア編はマグナとハサハに満遍なく萌えながら、書いておりました(笑) ってか、萌えずに文字が書けるか、っての(逆ギレ)
まあ、なにはともあれ、次回はどきどきアグラバイン宅お泊まり編です(微妙に違う…)
微妙に予告?
マグナ「アグラバインさん……自分を木こりって言ってたけど、本当にそうかな?」
(2004.05.25UP)
(2008.02.15 加筆修正)