『彼』の頭を抱きしめる、『彼女』のぬくもり。
とくん、とくん――――――っと、規則正しい鼓動が聞こえた。
温かくて、柔らかい。
優しい命の鼓動と、肩から流れ落ちる輝く髪。
そっと頭を撫でられるたび、『彼』の中の不安が消えていった。
『彼』を抱きしめる『彼女』の鼓動に、心が安らぐ。
『安息の地』とはこういったものだろうか?
『彼』は目を閉じ、『彼女』の背中に腕を回した。
右耳には、『彼女』の心音。
指先には、『彼女』の純白の翼。
つかの間の安らぎである、と『彼』もわかっている。
『彼』の一族は呪われていて、今がその報復をうける時なのだから。
本当ならば、このように癒されることなどあってはならない。
『彼』の父親がそうであったように、『彼』もまた報復を恐れて日々を生きるはずだった。
そうわかっているのに。
『彼女』を手放すことは出来なかった。
懐かしくて、温かい。
少しだけ寂しくて、切ない。
両腕は確かに『彼女』を捕らえているのに、今にも消えてしまいそうで――――――
『あわわ……』
奇妙な悲鳴に、『彼』は眉をひそめた。
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