最初にに話しかけてきた酔っ払いは3人。
実際にを捕まえに来たのは2人。
その後から少年は助けに入ってきたので、最後の1人の存在には気がついていなかった。
だから、当事者であるは『それ』に気がつけた。
赤毛の男を捕まえた少年の後ろに回る、3人目の姿に。
酔っ払いになど本当は近付きたくないし、暴力も苦手。けれど、自分を助けてくれた相手が危険なのだ。怖くても、逃げ出したくても、自分で動かねばならない。
自分は気がつけたのだから。
は少年の後ろに回る男の、さらに後ろから近付く。
さすがに素手で自分が殴っても効果がないのはわかっていたので、宿屋の軒下に立て掛けてあった木の棒を手にとった。
助けに入った少年に意識を集中しているので、酔っ払い達はの行動に気がついてはいない。
「ごめんなさいっ!」
いきなり後ろから殴りかかるのには抵抗があったので、一応一言声をかける。
後ろから近付く最後の1人に気がついた少年は振りかえり、瞬く。
に声をかけられ、振りかえった男は――――――それが災いした。
――――――ゴッ
非常に、『良い音』があたりに響く。
「ぐふっ」
「へっ?」
あまり痛くないようにと加減し、急所を外して振り下ろした木の棒は、一言かけられ振りかえった男に『たまたま』クリーンヒットした。
あっさりと意識を手放し前のめりに倒れる男に、は慌てて謝罪する。
「そ……そんなに強く殴るつもりはっ!」
今や凶器となった木の棒を握り締め、は倒れた男の肩を揺すった。
「でも、後ろからいきなりなんて、卑怯です」
何やら必死で自己弁護を始めた少女に、リューグは2・3回瞬き、それからニヤリと笑った。
「……へぇ。やるなぁ」
「あぅ……だから、そんなつもりは……」
「じゃあ、どんなつもりだったんだよ」
「見事なクリーンヒットだったぜ?」っと感想をもらせば、少女は泣きそうな顔をして倒れた男とリューグの顔を見比べた。
にしてみれば、酔っ払いの注意を反らせられればそれで良かった。
それがまさか……避けてくれと願いを込めた一言により、結果とはいえ相手を気絶させてしまうとは。
(こいつ、……逃げなかったんだな)
逃げるどころか、自分を助けるために酔っ払いに立ち向かってきた。
いかにも『守られるべき存在』といった印象を与える少女の、意外に勇ましい姿にリューグは感心しながらも手を動かす。
捕まえた赤毛の男を地面に伏せ、抑えつけて簡単にロープで腕を縛る。
「チクショウ……」
3人目の不意打ちに、勝利を確信した黒髪の男が呟いた。
そのまま腰に下げた剣を抜く。
「調子にのりやがってっ!」
「ちっ!」
どうもキレてしまったらしい酔っ払いに、リューグは腰の斧に手を伸ばす。
しかし斧を掴むよりも先に、頭上を通り過ぎる物体。
少女が握っていた木の棒が、黒髪の男の顔面に命中するのが見えた。
「すいません、当てるつもりは……」
「当ててるだろう、おもいっきり!」
背中から聞こえた言葉に、リューグは場合も考えずにツッコミをいれた。
「だって、さっきは声をかけたら当たっちゃったから……」
だから、今度は声をかけずに棒を投げたらしい。
おどおどしているのか、勇ましいのかわからない少女に、リューグは再び瞬いた。
「ふざけやがってっ!」
顔面に攻撃をくらい、勢いはそがれた。
が、ますます引けなくなったといってもいい。
完全にキレた黒髪の男は、今度は少女に斬りかかる。
「危ねぇっ!」
酔っ払いの気迫に飲まれ、咄嗟に動けないらしい少女をリューグは引き寄せた。
避けるのは間に合わない。が、自警団の装備をつけている自分が盾になれば、少女は軽傷ですむ。
旅人相手にそこまでしてやる義理はないのだが、だからと言って見捨てられるほどリューグは器用ではない。
守ると決めたものは、最後まで守る。
少女を腕の中に抱きこみ、リューグは今度こそ自分の斧を掴んだ。
黒髪の男の剣が振り下ろされた瞬間――――――
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