「離してくださいっ!」

 悲鳴に近い少女の声に、リューグは顔をあげた。
 そのまま声のした方に顔を向ければ――――――最近では見なれてしまった人垣が見える。

 旅人同士のいさかいを、面白そうに、または心配げに見守る……野次馬の集まり。

 遠巻きに事態を眺めているぐらいなら、立ち去るなり、被害者を助けてやるなりすれば良いのだが……生憎、彼らは旅人であって、村人ではない。目の前で起こっていることは、通りすがりである彼らには関係のない事柄であって、また他人の不幸は最高の娯楽でもある。明日は我が身という言葉もあるが、実際にそれをふまえて毎日を生きる者など居ない。

 下手に助けに入り、自分が巻きこまれるのはごめんだ。
 しかし、酔っ払いに絡まれた不幸な少女は気になる。

 旅人というのは、ある意味では気楽な生き物と言っていい。
 その場その場で問題を起こしても、旅立ってしまえば関係がない。

 が、その場所に住む者にとって、そこで起きた事柄は大切な問題である。

 たとえ余所者同士の揉め事であっても、自警団として、村に住む者として、放っておくわけには行かなかった。
 なによりも、また村人――――――それも子供が巻きこまれる事態だけは避けたい。

「……揉め事ばっか起こしやがって」

 リューグは軽く舌打ちし、遠巻きに事の成り行きを見守る野次馬に分け入った。