最近、この村はおかしい。
『聖女』を祭り上げてから、だろうか。
村にやってくる旅人が増えて、村全体の収入が増えはしたが……変わりに、『聖女』と呼ばれる少女は自由を失い、自警団の仕事も増えた。
順番待ちの列整理や、臨時の宿泊施設の設営、そういった仕事が増えるくらいはなんのこともないのだが……やってくる旅人には当然、性質の悪い者もいる。
先日も『聖女の奇跡』待ちの金持ちに護衛として雇われた冒険者が泥酔し、村の子供に怪我を負わせたばかりである。
『聖女』を祭り上げる以前は、そんな事件は起きなかった。
村に一軒しかない宿屋兼酒場は大人たちの憩いの場であったし、例え酔っ払ったものが暴れても、子供が殴られるようなことは無かった。
林業と狩猟で生計をたてる小さな村。
隣近所は家族同然で、良い意味で遠慮が無い。
泥酔するまえに酒場の主人が酒を止めるし、自警団が止めに入らなくとも、酔っ払いの喧嘩は村の誰かが止めにはいった。子供が親を呼びに酒場に顔を出しても、店の中に入る前に大人達が取り次ぎ役になる。
互いに声を掛け合い成り立っていた、貧しいながらも平和な村。
しかし、『聖女の村』と呼ばれる今では人が増え、村人たちの目が届かない。
旅人という気心の知れない者、冒険者という『力』を持った者に、注意を促せるものも少ない。
結果として、自警団の仕事は増え、そしてまた目が届かなくなる。目が届かないからこそ、事件が起こる。
『聖女』のおかげで村は確かに豊かになった。
しかし、同時に混乱も引き寄せている。
たった1人の少女の自由を奪い、得たものなど本当にあるのだろうか。
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