「やっぱり満室かぁ……」
やっと見つけた村に一軒しかないという宿屋から出て、は盛大にため息をつく。
この場所を探しだすのに、少々時間がかかった。
広場や少し広い道には旅人が多く、村にどういった施設があるのかを知っている村人はなかなか捕まらない。それはそれで、広場の人ごみについての情報収集はできたのだが……おかげで宿が取れないだろう事も予想がついた。
このなんの変哲も無い村に、今は『聖女の村』という別名があった。
この小さな村には、怪我でも病気でも、なんでも治してしまう『聖女』がいるらしい。
その『聖女の奇跡』を求めて、近隣の村や、遠くはデグレアと聖王国の間にあるトライドアからも旅人が訪れている……との事で、村に一軒しかない宿屋は常に満室。奇跡を求めてやってくる旅人の為に、臨時の宿泊施設も用意されているそうだが……そこもすでに満室で、人が溢れていた。
宿が取れない以上、後は村人の好意に甘えるしかないのだが。
生憎、この小さな村に―――正確に言うのなら、リィンバウムという世界に―――ツテはない。
「どうしようかなぁ……」
もう一度、大きくため息をついてから、は空を見上げた。
っと、声をかけられる。
「しけた顔して、どうしたい? お姉ちゃん」
微妙に振りかえりたくない響きを持つ言葉に、それでも話しかけられているようなので、は恐る恐る声のした方へと振りかえった。
冒険者か、傭兵……といった所か。
あまり身奇麗ではない、赤い顔の――――――酔っ払いが3人、宿屋兼酒場の入り口から顔を覗かせていた。
あまり関わりたくはない。
は即座にそう判断して、愛想笑いを浮かべてその場を離れることにしたが、腕をしっかりと掴まれてしまった。
これでは無視することも、逃げ出すこともできない。
「おいおい、無視するこたぁないだろぅ?」
赤毛の酔っ払いに引き寄せられて、は顔をしかめた。
はっきりいって、酒臭い。
は、男性や身長の高い人物は怖い。
しかし人を見かけで判断してはいけないと、ルヴァイドで学んだ。彼は身長も高く、力も強い。けれど誰よりも優しい心を持っていた。
けれども、酔っ払いという人種は無条件で逃げ出したくなるし、好きになれない。できれば近付きなくないし、自分もお酒などは飲んでみたいとも思わない。
足は歩きづめで疲れているのだが、叶うことならば今すぐ走って逃げたい。
泣きたい気分で、はできるだけ酔っ払いから離れるように足に力を入れた。
「可愛い顔してるなぁ。どうだい?
お酌をしてくれたら、お兄さんが宿を貸してやろう」
「男3人、相部屋だがな」
何気なく声をかけた娘の予想外に愛らしい顔立ちに、気を良くした酔っ払いが、逃がしてなるものかと腕を引き、抱き寄せる。
間近くかかる、酒臭い吐息に、は顔をしかめて身を堅くした。
酔っ払いと言うものは、なぜこうも人の都合を考えないのだろうか。
しっかりと肩に回された腕は、忙しく動き、の肩と腕を撫でさすっている。
気持ち悪い。
酒臭いのも、アルコールと混ざった体臭も、身体を撫でる手も、すべてが気持ち悪い。
「離してくださいっ!」
キッと相手を睨みつけるが、たがの外れた酔っ払いにはなんの効果も発揮しない。
むしろ、相手を喜ばせるだけだった。
「怒った顔も可愛いねぁ〜」
なかなかお酌をする娘を連れてこない仲間に業を煮やしたのか、もう1人の黒髪の酔っ払いが、の腕を掴む。
そのまま店の中につれこまれそうになり、さすがにも大声を出した。
「離してっ!」
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後書きの類似品。
酔っ払いが役がベタな台詞回しでごめんなさい(…ますソコなんですね、謝るところ)
ちなみに、私、酔っ払いは大キライでございます。
あと一回、ベタな台詞回して酔っ払いさんが出てきますが、ご辛抱のほど、よろしくお願い致しますです、ハイ。
ところで、普通なら安全だろう集落の中でもトラブルに巻き込まれるのはの不運か、はたまたただの添え花か……4月1日に見た人には、次ぎの展開が分かる(笑) ってか、下の予告で思いっきり名前が出てますが(笑)
ハサハは書いてて楽しいなぁ。
萌えながらハサハを動かしている私はただのアホですか? アホですね。 すみません。
掲示板にちょっと書きましたが、やはりマグナも昔ルヴァイドに「お願い、お兄ちゃん!」っやってたのか……気になりますね。 私だけですか? そんな馬鹿は。
微妙に予告?
リューグ「宿、みつかったのかよ?」
(2004.04.11UP)
(2008.02.14 加筆修正)