マグナとハサハは、と分かれ、少し村から外れた森を歩く。

 夕方には王都につく予定だったが、道を間違えてレルムの村に来てしまった。そのため、日はまだ高い。

 マグナは空を見上げ、目を細める。
 下から見上げる木々の幹は黒く、緑の葉はキラキラと日を反射して輝いていた。下草は柔らかく、足元から伝わってくる感触はふわふわとしていて……デグレアの雪道とは大違い。森の抜けるそよ風に、マグナの足は自然と日当たりの良い場所を探していた。

「それにしても、……いい天気だなぁ」

 先ほどから雲一つない青天。
 柔らかい下草に、ハサハも足元の感触が変わってほっとしているらしい。
 少しだけ戻った笑顔でこくりと頷く。

「……落ちつくよな?」

 くいっとハサハの手を持ち上げて、マグナが同意を求めて視線を落とす。
 ハサハはマグナを見上げ、こくりと微笑んだ。

 ぽっかりと木々の中に穴が開いたように陽光が降り注ぐ場所。
 少し歩いて、マグナは昼寝には最適と呼べる場所を見つけた。

 他よりも目立つ大きさの木があり、日よけも確保できる。

 マグナが近づいてみると、昼寝はもとより木登りにも向いているらしい。
 いくつか人が登った形跡と、枝の折れた個所がある。
 それから木に背を向けて立つと、村の広場が見渡せた。

 どうやらこの場所は、村の子供たちの遊び場らしい。

「「…………」」

 顔を見合わせて、ハサハとマグナは笑い合う。
 良い場所を見つけた。

「ここで、お姉ちゃん、待つの?」

「そうだな、ここにしよう」

「……お兄ちゃん」

「ん?」

 良い場所を見つけた、と早速腰を下ろすマグナに、ハサハは隣に正座をしながら一言。

「……寝ちゃ、ダメだよ」

 腰を下ろすどころか、すでに寝る準備万端とばかりに寝転がり、顔だけを日陰に入れたマグナに、ハサハはメッと眉を寄せる。
 は自分とマグナを休ませるため、1人で出かけたのだ。腰を下ろして休憩をするのならともかく、お昼寝までするのはさすがに気が引ける。

 ハサハに痛いところをつかれて、マグナは目を反らした。

「「…………」」

 ぎゅっと膝の上で手を握り、神妙な顔つきで見つめてくるハサハ。
 沈黙に負け、マグナは身体を起こした。

「……ハサハ、いい天気だな」

「…………ダメ」

 取りつく島もない。
 今にも眠りそうな目をしているくせに、こちらも頑固に起きていようとするハサハに、マグナは苦笑する。
 とハサハ、妙なところで2人は似ている。
 普段はが気を配るので、マグナにべったり甘えていてもいいが。
 今はがいない。
 ゆえに、護衛獣としての使命感がそうさせるのだろう。
 無用心に昼寝に入ろうとしているマグナを、小さなハサハが嗜めている。

 む〜っと眉を寄せて目をこするハサハの頭を、マグナは胸元に引き寄せた。そのまま寝転がれば、胸枕のできあがりである。
 ここで眠るわけにはいかないハサハは、自分の頭を抱くマグナの手を振り解こうと手を振る。が、効果は薄い。元々疲れ果てていて、眠たかったハサハ。さっさと寝かしつけようと頭を撫でつけるマグナの手と、暖かな陽光に、すぐに誘われる。

「……寝……ダ、メ……」

 だんだんと小さくなる抵抗の声に、マグナを目を閉じた。



 空は快晴、風は心地よく、森を駆け抜ける風の香りに包まれて。

 もう1人の少女には申し訳無いが、マグナは最高の気分で眠りについた。