見上げれば、雲一つない青い空。

 見渡せば、人影の見えない王都街道。


 立ち止まる人影は3つ。

 見事な黒髪を高い位置でまとめた少女と、頭の上から三角の耳が生えた幼い少女。
 地面と仲良くキスしているのは、紫かかった黒髪の少年。

「……おにいちゃん」

「ご主人様……」

 見下ろす少女2人の、主人にあたる少年の髪は少しだけこげていた。

「平気、大丈夫。
 ……そろそろ慣れてきたし、養父さんの雷に比べれば……」

 実力者の召喚術と、謎の雷。
 そもそも比べること自体間違っているのだが。

 あちこち煤だらけになりつつも、マグナはこげてあらぬ方向を向いた髪を手櫛で簡単に整える。そのまま地面にあぐらをかき、空を見上げた。

 雲一つない青空。

「やっぱり、……アレかな?」

 快晴の空に、雷雲などは1つもない。
 そもそも自然に発生した雷ならば、今、マグナは生きていないだろう。
 突然雷に襲われたのは、実はこれが初めてではない。
 マグナはデグレアを出立してからしばらくして、何もない空からの襲撃を受けるようになった。

 原因を探るマグナの一言に、は顔を曇らせる。
 心当たりはあった。

「……『呪い』ですか?」

 そっと、は自分の額に触れる。
 前髪に隠れたそこには、特に目に見える何かがあるわけではない。
 しかし確かに、初めて召喚に成功した悪魔が、の額に刻み付けた呪いがある。
 目に見える印でもあれば、忘れることはないのだろうが――――――何かの拍子に落ちてくる雷に、ソレを思い出すようでは。さすがに、いささかのん気すぎるような気がしてきた。
 なにより、今のところ被害者はマグナであって、本人ではない。

「でも、どうして私本人には落ちてこないんでしょう?」

 呪いを受けたのも、その原因をつくったのも、自身。
 召喚のさい、ハサハとマグナは側にいたが、二人は悪魔に何もされてはいなかったはずだ。

 立ちあがり、埃を払うマグナをハサハが手伝う。

「さぁ?
 そもそも……発動条件すらまだわかってないし、対処のしようがないな」

「すみません」

 しゅんと俯くを励ますように、マグナは少女の肩を叩いた。

が気にすることじゃないよ。アイツがしたことだし。
 むしろ、これぐらいで済んでよかったって、養父さんも言ってただろ?」

「……はい」

 雷に打たれたばかりの被害者であるマグナが、にっと笑う。
 その笑顔につられれ、も微笑み返した。

「…………おにいちゃん」

 埃を払い終えたハサハに、くいくいっと袖を引っ張られてマグナが視線を落とす。

「どうした? ハサハ」

「あれ」

 ハサハが小さな手で指差すものは……妙に背の短い道しるべ。
 距離と道筋が簡単に書かれた板が、石を利用して立てかけられている。

「……こういうものって、普通大人の目線に合わせて立っていませんか?」

 マグナに続き、が道しるべに近付く。

 不自然極まりない。
 旅をするのは普通は大人だ。ハサハのような小さな子供なら、当然保護者と一緒にいるはずである。このように、大人が見つけるべき物が子供の目線にたてられているはずがない。

 ――――――注意して少し離れた場所を見れば、2本の柱が投げ捨てられていたのだが。
 残念ながら、マグナもも、それには気がつけなかった。

 首を傾げるの横で、マグナが膝をおりハサハの頭をなでる。

「えらいぞ、ハサハ。
 ハサハのおかげで、道を間違えずにすんだ」

 にこにこと笑いながら頭を撫でるマグナに、ハサハは嬉しそうに微笑んだ。

 一見立派な整備された道が王都への道かと思うが、道しるべが示す道筋によれば、王都への道は――――――整備された道を少し反れることになっている。これでは、この道しるべがなければ間違えてどこかへ行ってしまうところだった。

 太陽の位置と、表記されている距離を見比べて、マグナは立ちあがる。

「王都ゼラムまでは……あと半日ぐらいか」

「急げば夕暮れまでには着けますね」

 王都につけば、街のなかにある蒼の派閥はすぐそこ。
 常識を無視して夜遅くに訪ねれば、今日中に念願の妹との再会できる。
 宿をとり、旅の疲れをおとしてから訪ねても……遅くとも明日中には再会できるはずだ。

「……行こうか」

 満面の笑顔で、マグナが2人の護衛獣に振りかえる。

「はいっ!」

 マグナの笑顔に、妹との再会を自分のことのように楽しみに思いながら、も微笑む。
 その横でハサハも嬉しそうに頷いていた。






  

 後書きの類似品。

 全開から半月たってますが、こんにちわ(……こら)
 今回ちょっと……書き方を(書く為の下準備?)変えたので、時間がかかったのやも。
 02話からは、いつもどおりに直します。話の間にまが開きすぎるのは問題だと思うので。

 何はともあれ、01話の第1回めの始まりです。
 途中エイプリールフール企画で公開していたように、多分(書いてるうちに長くなったら区切るかも…)全7回です。また週1アップを目指しますので、どうか見捨てないでやってください(ぺこり) あと、今回からは区切りの良いところで区切って行きたいので…短いものは短いかも(苦笑) でも、今回のパートが一番短い予定だったんですが……結構伸びてます(爆笑)
 予定通りに進まないのはいつものことですが。(苦笑)

 今回マグナ、少なくとも2回は雷の被害にあってます(笑)
 この連載が終わるまでに何回打たれるか……予定は未定。

 微妙に予告?

ハサハ「…………………ダメ」

(2004.04.04UP)
(2008.02.14 加筆修正)