結局、ネスティの部屋に陣取り。
 トリスはネスティに煎れてもらった、温かいココアを持つ。
 肩には護衛獣の―――レシィの―――持ってきた毛布をかけて。
 トリスは窓をあけて、星空を見上げた。

「寒いだろう」

 後ろから兄弟子の迷惑そうな声が聞こえれば、

「じゃあ、ネスも包まる?」

と、毛布の片方を広げて妹弟子が誘う。

 その無邪気な笑顔に、ネスティが頭痛を覚えるのは何度目か。
 トリスには、年頃の少女としての自覚がたりない。

「自分の部屋で見ればいいだろう。
 星空なんて、どこから見ても同じだ」

「『おにいちゃん』と見たいなァ〜?」

 ひらひらと毛布を揺らして、トリスがネスティを誘う。
 少々しつこい誘いに、ネスティは気がついた。

 トリスは『一人ぼっち』を嫌う。

 それは幼いころ、右も左もわからない王都へと無理矢理つれてこられたことからか、はたまた別の要因か。
 他の派閥の人間には自分から近付かないくせに、孤独を嫌うものだから……いつもネスティか師範の傍に陣取っている。
 出会ったばかりのレシィでは、トリスのそういった面には気付かないし、兄代わりのようなネスティの代わりにはなれない。
 そういう事だろう。
 それは判る。
 それは判るが。

「1人で見ていろ。
 明日は出発なんだからな、風邪なんかひいてみろ。
 フリップ様から派閥にある一番苦い薬をもらってきてやる」

「それは嫌かも……」

 想像したのか、口元を押さえ、トリスが気持ち悪そうに眉を寄せた。
 そして、やはり窓を閉めないままに、夜空を見上げる。






 やっと諦めたらしいトリスに、ネスティは作業を再開した。

(そう言えば…)

 ふっと思いだす。
 時々『一緒に星を見よう』とトリスが誘いに来るのは、昔からあった習慣。
 トリスは防寒用の毛布を重そうに抱えては、ネスティの部屋を訪れていた。
 その時必ず言ったのが、「おにいちゃん、また星をみよ」だったはず。

 普段は『ネス』と呼ぶくせに、なぜ星を見ようと誘う時だけは……必ずと言って良いほど『おにいちゃん』だったのか。

「なんで『お兄ちゃん』だったんだ?
 普段は『ネス』なのに」

 ネスティは疑問に思ったことを、本人にぶつけてみる。
 ぼんやりと星空を眺めていたトリスから返ってきたのは、生返事だった。

「知らない。年上だったからじゃないの?」

 夜の外気に触れて、トリスは昔―――派閥につれてこられる前に住んでいた町―――を思い出す。
 住んでいたというよりは、ただ生きていた。という感じだろうか。
 いつも寒くて、お腹の空いていた、浮浪児の自分。
 同じ浮浪児仲間達と毎日を必死に食い繋いでいた、寒い夜。

 今は派閥に束縛をされているが、温かい食事と、温かい部屋がある。
 
 トリスを取り巻く環境には、天地ほどの開きがあったが、見上げる星空が、綺麗なのはどこにいても変わらない。

 いつも『2人』で見ていた――――――

 あれ? とトリスは瞬く。
 そのまま「ネスネス〜」と兄弟子を手招く。

 ぼんやりとしていた態度から急に変わったトリスに首を傾げつつ、ネスティは素直に招きに応じた。

 おもむろに、トリスがネスティの手首を掴む。
 ぐいっとひっぱり、その腕をそのまま自分の首に巻きつけて――――――

「人間マフラー」

 トリスがニコニコと笑う。
 一瞬のことに、ネスティがついていけずに瞬いて、次の瞬間には頬を赤く染めた。

「トリスっ!」

 不意打ちとはいえ、兄妹同然に育ったとはいえ、この姿勢は非常に不味い。
 端から見ればネスティがトリスを後ろから抱きしめているように見える。
 年頃の娘が男の部屋に来ることも頂けないが、自ら体を預けてくるとは何事か。

 未だ『つつしみ』というものを身につけないトリスに、ネスティは眉を寄せた。

「えへへ〜。
 やっぱ、星を見る時はこの姿勢じゃないとね。『人間マフラー』」

 睨まれてもいつものこと、とトリスはまったく動じない。

「ご主人様、嬉しそうですね」

「ん、温かいよ〜。レシィもおいで」

 兄弟子が逃げないように片手で腕を掴んだまま、トリスはもう片方の手で護衛獣の少年を手招く。
 呼ばれたレシィは素直に頷き、トリスに抱きついた。

「まったく……」

 呆れて物が言えないとはこのことだ。
 ネスティは深いため息をついてから、観念したようにトリスの頭に顎を置いた。

「トリス、僕も毛布に入れてくれ。
 明日は出発だというのに、二人で風邪を引いたら……」

「シャレになんないもんね」

 にっと笑って、トリスはネスティを見上げる。

 1枚の毛布に3人で包まって、「ん〜温かい〜」っとご機嫌なトリスが星空を見上げた。






『いつも』 この姿勢だった。

 寒い夜。
 見上げる夜空と、温かい背中。

 派閥に来てからは、ネスやラウル師範。

 では、あの町にいたころは――――――?






  

 後書きの類似品。

 トリス書きたい。
 って理由だけで、トリスサイドの閑話です。いや、もうしばらく出て来ないから、という憂さバラシやも。
 基本的に、ログを取るって作業が苦手(面倒くさがりだもんね、なしえさん)なので、ゲーム本編であったやり取りはうろ覚えで(笑)、適当に行きます(笑)
 ネスティこうやって書いたの初めてですが……結構書きやすい(苦笑) 基本姿勢、『トリス最優先』って感じで。イオスとは大違いだわ(笑) イオスは……本心が見えるような、見えないような。
 と、いうわけで……次はミニ劇場の更新か、本当に01話突入か。(突入しようよ、さっさと。)はたまたレイムパパで閑話を書くか(それはやめとけ)
 誤字脱字は……ま、そのうち修正します(苦笑)

 微妙に予告?

ケイナ「……どうすんのよ、このお馬鹿っ!」

(2004.03.17UP)
(2008.02.11 加筆修正)