召喚術を教えてくれるレイムが出仕し、マグナがまだ眠っている午前中。
 はレイムの館で働くメイドから、仕事やリィンバウムでの常識を学ぶ。
 少し前まではハサハも一緒に手伝いをしていたのだが……今は召喚主に似たのか、はたまた護衛をしているつもりなのか。マグナと同じベッドで眠るハサハも、立派な『お寝坊さん』だった。
 ――――――それにしても、とは思う。

 基本的に……レイムの館は人手が足りない。

 今はとハサハが増えて、4人家族の計算になる。それだけならばメイドは必要ないが……顧問召喚師を勤めるレイムの館は、とにかく広い。レイムの蔵書で数室、マグナの部屋、の部屋、本人がマグナにべったりなのであまり使われていないハサハの部屋に、客間、応接室、居間、玄関ホールに……召喚術の練習にはうってつけの広さを誇る地下室まである。

 気のせいでなければ、使われていない部屋の方が多い。

 マグナとレイム養父子の世話だけならば1人いれば十分なメイドだが、これらの部屋を管理・維持をするとなるとそうはいかない。召喚師という本と研究に囲まれた職業のためか、元々の気質か。レイムにはあまり『生活を営む』という意識はないらしい。
 ゆえに、メイドの数も少ない。
 必要最低限の数……かどうかも怪しい。

 そんな状況なので、必然的にその仕事を手伝うも忙しくなる。

 今日もそうだった。
 そろそろ馴染みを感じる濃紺のメイド服を翻し、は城と館を行き来する。






「……

 名前を呼ばれ、は立ち止まった。
 機械の作り出す聞き覚えのある声に、振りかえり声の主を探すと――――――少し離れたところに『彼』はいた。

「……『また』ですか?」

 雪が積もり、一面白に塗りつぶされた裏庭だったが、彼の立つそこだけは人目を引く。
 白い雪の中に、1点だけの黒。
 漆黒の機械兵士が、奇妙な姿勢で佇んでいる。

「ゼルフィルドさんって、モテますよね」

 視線を『彼』の肩に向ければ3匹、足元には4匹の猫がじゃれついている。

「言ウナ」

 機械兵士であるゼルフィルドに感情はないとのことだったが……今の姿を見ると、それは誤りであるように思う。
 人間でいうところの『当惑』。
 短く答える『彼』が奇妙な姿勢をしているのは、肩にのった猫を落とさないためか、それとも力の加減を誤り、潰してしまわないためか。
 そういった『気遣い』が見て取れる一見微笑ましい姿に、の口元が自然とほころぶ。

「少しだけ、待ってくださいね」