「……じゃあ、レイムさんって本当に?」

「ああ、俺が引き取られた時には、もう今の姿だったよ」

 こんなに小さいころから、と手で当時の背丈を示しながら、マグナが養父について語る。

「あそこまで変わらないと、ほとんど化け物だよ。
 ……40は超えてるはずなんだけど」

 少々レイムに失礼な気はするのだが、マグナとの冗談混じりの会話に、が笑う。

「そういえばさ、昼間なにかあった?」

「昼間?」

「イオスとなにか話しこんでただろ。二人して床にすわって」

 は少し瞬いてから、見られていたのか、と少し気恥ずかしくなった。

「イオスさんの、お気に入りのペンダントを……私がうっかり壊してしまったんです」

 彼にとって、思い出の品であっただろう物を壊してしまったのに。
 責めるどころか、逆にに気を使ってくれたイオス。
 結局、石の欠片は捨てることができず、今はの部屋に置かれている。

 変わりに、と渡そうとした自分の勾玉をポケットから出し、はそれを握り締めた。
 の持つ勾玉と、元は同じ形をしていたイオスの石。
 リィンバウムでは不思議な形なのだろうか。マグナが興味を持って、の手を覗きこむ。

「……直せたらいいのに」

 ぽつりと呟く。
 自分と同じく、故郷を失ったイオス。
 彼はのように『自分の力では帰れない』というわけではない。
 『自分の意思で帰れない』のだ。
 それはある意味、帰れないことに言い訳が出来るの立場よりも、辛いものかもしれない。
 『召喚術』という、逆らえない理不尽な力により呼び出されたには、召喚主にやつあたりをすることも、故郷を懐かしんで泣くことも許されている。
 だが、それが自分の意思でのことなら……それは許されない。
 故郷が懐かしかろうが、寂しかろうが、結局は自分が選んだことなのだ。

「直せたらいいのに」

 切実に、そう願う。
 イオスから、自分と同じように故郷を失った彼から、何かを取り上げたくはなかった。

「『修復』をする召喚獣って……いないのかな」

 から勾玉を受け取り、面白そうにひっくり返しながらマグナが呟く。
 その言葉に、が顔をあげてマグナを見る。

「いるんですか?」

 きらきらと期待を込めて見つめられ、マグナは少したじろいだ。
 彼にしてみれば、思いつきを口にしただけなのだが。

「いや、聞いたことはないよ……」

 期待しているところ、申し訳ない。
 そんな表情で返すマグナに、も肩を落とした。

「……でも、誰も知らないだけで、いるかもしれない」

 フォローするように足されたマグナの言葉に、は再び顔を上げる。
 その場しのぎの励ましの言葉かもしれないことはわかった。
 それでも、には十分な言葉にとれる。

 まだ習い始めたばかりの、未知の部分の多い『召喚術』。
 確かに、その力ならば……『修復』を行うものもいるかもしれない。
 『傷を癒す』という力すら、魔法のない世界に生きてきたには神秘の力なのだ。
 むしろ、癒すよりも『修復』のほうが簡単かもしれない。
 そうも考えられた。

「そうですよね。……頑張ります」

 頑張って、召喚術を学ぶ。
 そして、いつか『修復』を行える召喚獣を見つけたい。
 
 はそう決意した。






  

 後書きの類似品。

 うっかり腱鞘炎で、形にするまでに途中結構間のあいた『緑青の望郷』お届けです。

 のコンセプトは『普通の少女』であること。
 ゆえに、前世でリィンバウムとなにか因縁があったりは、まったくないです(断言)
 戦闘センスについても、そう。武器の扱いが上手いだけで、戦闘ではたぶん役に立ちません。
 普通の日本人、それも17歳の少女がいきなり人殺しなんて行為ができたら……おかしいと思いますから。
 誰にだってありますよね、きっと。特に好きでも興味もないけど、なんとなく得意で、人よりうまく出来ること。それがにとっての戦闘です。……よりによって、そんなところが得意なのか。って気も(笑)

 実はイオスと。互いに気を使い会って、逆にうまく人間関係を作れていないっぽい(笑)

 さ、次は黒騎士と交流を深めましょうか。(すでに気分は恋愛シュミレーション(爆笑)
 微妙に予告?

ルヴァイド「おまえの瞳は……こんな色をしていたのだな」

(2004.02.08UP)
(2008.02.11 加筆修正)