印象としては、『アンバランス』。
 そう形容するほかにない。

 顧問召喚師が上司の元に連れてきたという少女は、たおやかで儚く、女性的にほどよく肉のついた体つきをしていて、武術とは一切無縁な生活をしてきたであろうことがわかる。無駄な筋力はおろか、短剣を持つ手つきも頼りないほどに、腕力がない。
 女性というものは、それが当たり前だ。
 本来彼女達は男に守られる存在であり、守る立場にはない。
 そのはずだ。
 そのはずなのだが――――――の場合はその例に含まれないらしい。
 必要に迫られて、とのことで槍術を教えてわかったことだったが。

 はとにかく、センスがいい。

 イオスの元に任せられる前に、ルヴァイドはに様々な武器を扱わせたらしいが、どれもコツを教えればすぐに扱えるようになったと聞いている。
 元々の握力がないので、長時間剣を構えたり、素振りをしたりはできないのだが……1度動き始めれば、それは関係ない。
 は己の小さな力と武器の重さを最大限に利用して、攻撃を仕掛けてくる。
 それは、一見しただけでは、武器に降りまわされているようにも見えるのだが。実際には手にした武器の利点を利用し、降りまわされているように見えて、その動きをしっかりと彼女は把握している。

 それら全ての動きが、無意識によるものだというのが恐ろしい。

 だけが、旅団員と違う場所で訓練を行うのも、そのためだ。
 のような『守られる存在』であるはずの少女が、その実、それを本職にしている軍人よりもはるかに優秀であるのは、非常にまずい。
 くわえて模擬戦であれば、一般兵に混ざっても遜色はない。

 それだけの実力――――――戦闘センスをは秘めていた。

 実践では使い物にはならないのが惜しく、また、そこだけがが一般人である証拠といえる。
 普通の少女であるには、当然のように覚悟がたりない。
 命を奪う覚悟が。

「武器の重さに降りまわされるな」

「はいっ!」

 じんじんと痺れる腕を無視して、はじき飛ばされた訓練用の槍を拾い、はそれを構えた。
 イオスの一撃は、とても重い。
 加減されていることはにもわかるが、受け流すことがやっとで、止めることは出来ない。

「おねがいします」

 ぺこりとお辞儀をして、はイオスに向き直る。
 それを合図に、がイオスに打ちこむ。
 には、重い槍を長時間持つ力はない。その重さについよろけてしまうほどだった。だが動き出せば違う。イオスには『武器に振りまわされている』といわれてしまうが、武器を自在に操るための腕力が自分にないことは自覚している。
 だったら、その重さを利用して、自分の少ない力で攻撃に転じるしかない。
 一つひとつの型をとるのは難しくとも、重さを利用し、流すことは出来る。

 イオスの金色の髪が揺れる。
 いつも不機嫌そうに歪められた、驚くほど調った顔が沈む。
 一瞬、の視界からイオスの顔が消えた後。
 は咄嗟に槍を引き戻す。

 そこにイオスの一撃が加えられた。

 再び槍を落とそうとした一撃をしのがれ、その学習能力の高さにイオスは驚いた。
 そしてそのまま加えられた力を利用して、の槍がイオスを狙う。
 相手の攻撃すらも自分の力に還元させる……の戦闘センスに舌をまきつつ、そこは本職の軍人。
 難なくかわ――――――すことは出来なかった。

 くいっとの槍に、イオスの胸元が引っ張られる。

 気のせいか、と思えるほど一瞬。

 だが槍の柄が攫う緑青の輝きを、イオスは確かに見た。

 ペンダントの鎖を引き千切り、勢い良く飛ばされたイオスの勾玉が壁に叩き付けられる。それから、今度は床に落ち……パキンっと乾いた音をたててから、石は砕けて四散した。