闇の世界から一転し、明るい世界。

 最初に少女の目に映ったのは、見覚えのない天井。
 それから、寝かされているベッドのすぐ側にいた―――たぶん夢うつつに感じた指先の主だろう―――自分とそう歳の変わらない見知らぬ少年。

「あ、気がついた」

 知らない少年の姿に、少女は僅かに怯える。
 そんな少女の内心には気付かず、紫がかった黒髪の少年は、少女を安心させようと人懐っこい笑顔を浮かべた。

「泣いていたみたいだけど……どこか痛かったりするかい?」
 
 どうやら心配してくれているらしい少年に、いまいち状況の掴めない少女は、首を振って答えることしかできない。
 ゆっくりと首を振ったあと、唇を閉ざし、眉を寄せた少女に、少年は苦笑を浮かべた。

「俺はマグナ。君は?」

 今だ一言も声をもらさない少女に、マグナと名乗った少年は名前を聞く。
 半分は責任感から。
 もう半分は、少女が目覚めるのを楽しみに待っていたのだ。
 早く少女の声を聞いてみたい。

 体に似合わない子犬のような雰囲気をもって笑う少年に、少女は戸惑いながらも唇を開いた。

「……、です」

 白い肌と相反する漆黒の髪。
 頭の高い位置でまとめられたストレートの髪のせいで丸顔が目立ち、幼くも見える。
 伏し目がちにマグナを見上げる濃い茶色の瞳は、未だ涙で潤んでいた。

 そんな美少女の、想像よりも―――否。それ以上に可愛い―――可憐な声音。

 やっと聞けたの声に、マグナはますます笑顔になった。

「あの、あなたは?」

 目の前でニコニコと笑っている、とりあえずは友好的らしい少年に、少しでも自分の状況を理解しようと、は聞き返した。
 見知らぬ天井に、見知らぬ少年。
 何故自分はベッドに寝かられているのか。寝かされていた、のか。
 目覚める前に状況と、今自分が置かれている状況は、あまりにもかけ離れていた。

「俺はマグナ、っていっただろう?」

「あ、いえ…そうじゃなくって…」

 意図した問いとは違った方向に捕えられ、きょとんと瞬きながら答えたマグナに、は不愉快にさせてしまったか、と少しだけ慌てた。

「ああ、そうか。
 ちょっと待ってて。今、養父さんを呼んで来るから。
 俺より、養父さんの方が、わかりやすく説明してくれるよ」

 言うが早いか、マグナはベッドの横に置かれたイスを引き立ちあがる。が止める間もなく、マグナは部屋を飛び出ていった。
 マグナの背中が消えたドアをしばらく見つめた後、一人残されたは、改めて部屋の中を見渡す。

 簡単な感想としては、『豪華な部屋』。
 この一言ですむだろう。

 今まで寝かされていたベッドにしても、その質感は……絹だろうか。触れたこともないような上等の肌触りに、中身は羽毛だろう。驚くほど軽い。
 次に、マグナが座っていたイスに視線を移す。
 これも絹と思われる当て布と、見事な彫刻の施された足。そこかしこには金箔まで張られていて……よくみると、布には金糸で見たこともない生き物の刺繍が入っている。それらに負けない豪華なテーブルセット、炎の揺れる暖炉、金を薄く伸ばしたプレートで飾られた本棚等に視線を泳がせ、は最後に窓の外へと目を向けた。

「……嘘」

 ひらり、ひらりと窓の外を舞う……白。

「……雪? まさか……」

 そう呟いてから、は自分の服装を見た。
 白い秋用のセーラー服と、薄手のカーディガン。
 自分は、例え真冬でも風花が舞う程度の地域に住んでいるのだ。今のように雪が降っているのはおかしい。
 加えて、朝目が覚めた時も、学校に登校した時も、確かに季節は秋だった。

「どうなっているの…?」

 しばらく瞬いてから、はベッドから降りる。


 そしてゆっくりと、白雪舞う窓辺に近付いた。





  

そんな訳で、勢いだけで書き始めちゃいました。
まあ、ラストまでのプロットは終わっているので…なんとかなるかなぁ。
たぶん、きっと。 がんばります(苦笑)

(2004.01.22UP)

誤字脱字と、文章おかしくないか? ってトコをちょっと加筆修正。
(2008.02.09)