少女は、暗い世界に立っていた。

 その世界には、子供の泣き声が響いていて……他には何も聞こえない。
 ついでにいうのなら、何も見えなかった。
 ただ、闇と啜り泣きだけが広がっている。

「……誰か、いるの?」

 泣き声が気になり、少女は闇に向かって声を投げかける。
 すると、自分のすぐ足元から返事が返ってきた。

「どうして……いじわるするの?」

 嗚咽の混じった声に、少女が足下を見下ろすと――――――いつの間にか幼女の姿があった。
 光もささない闇の中にあっても、不思議な事に幼女の姿は鮮明に見える。

 肩で揃えられた黒い髪の幼女。
 その姿に見覚えがあるような気がして、少女は腰を落とした。
 泣いている幼女を、とにかく慰めよう。そう思い、幼女の小さな方に手を伸ばすと――――――幼女が顔をあげる。

「わたしは……いらない子なの?」

 顔をあげた幼女と、腰を落とした少女の目が合った。
 濃い茶色の瞳の、幼女と少女。

 それはまぎれもなく、幼いころの自分の姿。

「おねえちゃんも、いらない子なの?」

 幼い声に尋ねられ、少女は目を見開いた。
 幼女と同じ、濃い茶色の瞳から涙が溢れ出す。


『……んと、綺麗な子だよなぁ』


 不意に、闇だけの世界に、誰かの声が響いた。


『早く目を覚ますといいんだけど……』


 少女の頬を撫で、涙をぬぐう、温かい指の感触。
 声の主の姿は見えない。


『これだけ可愛いと、声まで可愛くないと嘘だよな』


 涙をぬぐい、頬を離れる指の感触がなごり惜しくて。
 その指先に導かれるように、少女は目を開いた。