固く閉じた瞼。
今回に限っては、それは完全な失敗だった。
「ひっ」
視覚を閉じた代わりに、触覚が研ぎすまされている。
敏感になった触覚がの両手に伝えてくるモノは――――――ライガ・クイーンの片目を潰した時と酷似していた。やや弾力のある物に、尖ったものを刺した……肉を斬る感触。
「くはっ……」
「っ!」
聞こえた襲撃者の吐息とガイの声。続く加重。
握った短剣の先が重くなり、それに引きずられるようにの体制が崩れる。と、不意に大きな手がの震える手に重ねられた。
「……上出来です」
耳もとで聞こえたジェイドの声に、は目を閉じたまま身を任せる。短剣をもつ手に添えたられたジェイドの腕は、そのままを抱き寄せた。ジェイドの腕に引かれる感覚につづき、両手に感じていた神託の盾兵士の体重は遠くなる。
「ただ人を刺す時は、目を開けていてください。
一撃で仕留められなかった場合、今度はあなたが斬られますよ」
ジェイドに完全に抱き込まれ、軽くなった自分の両手。
けれど、は目を閉じたままに感じる。
身近く、むせ返るような甘い香り。
それは確かに甘い香りであったが、決して食欲を誘うものでも、心安らぐ物でもなかった。
「ルーク! ぼーっとするなっ!」
ガイの叱責に、ジェイドの腕の中では目を開く。
ジェイドの注意はルークに向いていた……が、は騒動の起こっている場所など気にならない。そろりと視線を降ろし、足下に横たわった神託の盾兵士を見た。
「……」
腹部と首から流れ出た血の海に横たわる体。
兜のおかげでその顔は見えないが、わずかに覗いた口元が音のない言葉を発していた。
兵士の腹部を刺したのは。
致命傷となった首への攻撃は、動けなくなったを神託の盾兵士から引き離すために、ジェイドが加えたもの。を胸に抱き込み、槍を以て兵士を―――兵士の首に槍を突き立てて―――遠ざけた時にできたものだ。
「…………」
命の灯火が消え行く兵士を見下ろしてから、は自分の手と握ったままの短剣に視線を移した。
――――――赤い。
手も、短剣も。
ただ、震えてはいない。
しっかりと包まれたジェイドの手に、隠されているだけかもしれなかったが。
「ルーク!」
再び聞こえたガイの声に、は顔をあげる。
ジェイドの肩ごしに、背にルークを庇い倒れるティアと、神託の盾兵士にとどめを刺すガイの姿が見えた。
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攻撃する時に目を閉じるキャラが、存在します(笑)
テイルズじゃないですけどね。
PSP版は確認していませんが、Win版の『白き魔女』のジョアンナさんが攻撃時に目を閉じます。