「ファブレ公爵家の使用人なら、キムラスカ人ですね。
 ルークを探しに来たのですか?」

 ジェイドの関心がからガイに移り、はホッとため息を吐いた。
 それにしても、ジェイドという男は鋭すぎはしないだろうか?
 いくらなんでも、握手をしようとしなかっただけで、女性恐怖症を知っていたのでは……とまで考えるとは。

(……そういえば)

 ルークに記憶がない。
 そう聞いただけで、彼の出自を疑っていた。
 普通であれば、そこまで考えは跳躍しないだろう。
 彼がレプリカ研究の近くにいた存在だったからなのか、単純に全てを疑ってかかる性質なのか……おそらくは、両者。

(それにしたって……)

 鋭すぎる。

 はガイの女性恐怖症を知っていたから、握手をしなかった。とはいえ、挨拶をするさいには必ず握手をするという習慣が全ての人間にあるわけではない。が咄嗟に手を差し出さなくても、不思議はないはずだ。チーグルの森からずっと、移動中はイオンがの手を握っている。それが理由に手を出すタイミングがずれた、とも考えられるはずだ。

 それに、タルタロスでは確かに上を――――――

(……あれ?)

 ジェイドを睨みながら巡らせていたの思考が、ある一点に引っかかりを感じ、止まる。

(……何か、変だった……?)

 ジェイドでも、自分の行動でもなく、何かがの心に引っ掛かりを残す。

(あの時、あの場所にいたのは……)

 リグレットと神託の盾兵士に捕まった自分とイオン、対してタルタロスを脱出してきたルーク、ティア、ジェイド。遅れて合流した――――――

(……アリエッタ?)

 違和感の正体に思いいたり、は眉を寄せる。
 あの時、非常昇降口を降りてきたアリエッタは……まずリグレットを見た。
 それからイオンを視界におさめ、最後にを見た。
 驚いたように瞬き、小さく唇をひらくと――――――

(……なんて、云ってたんだろう……?)

 小さく動いたアリエッタの唇の動き。
 洩れたであろう言葉は小さすぎて、誰の耳にも届かなかったが。
 アリエッタはをみて、何かを呟いていた。

「ヴァン師匠も探してくれてるのか!」

 喜色の浮かんだルークの声に、の思考は遮られる。

「……兄さん」

 続いたティアの複雑そうな声音に、ガイが眉を寄せた。

「兄さん? ……兄さんって……」

 不意にジェイドがとイオンの前に立つ。
 僅かに広げられたジェイドの腕に、イオンは何ごとが起こったのか理解したようだった。自分の役割―――ローレライ教団導師の身を護る事―――を成すため、を腕の中に庇い、ジェイドの背中に隠れる。ジェイドが槍を構えると、神託の盾兵士の姿をの目でも捕らえる事ができた。