からり、からりと揺れる馬車の中。
 ぼんやりと浮かんでは沈むの思考に、リグレットとイオンの声が聞こえる。

「――――――良く、おやすみのようで」

「譜術を扱ったのは初めてだったのでしょう。
 疲れているんですよ」

 さわさわと、優しく髪を撫でる感触に、の意識は再び沈みはじめた。

「導師の方は?」

「心配してくださっているんですか?
 ありがとうございます」

「……た、倒れられては、こちらが困りますから」

 一瞬だけつまった声に、リグレットが戸惑ったのが解る。
 あの凛とした女傑も、イオンの微笑みには勝てないのだろう。
 続いたイオンの笑い声に、リグレットの小さなせき払いが聞こえた。

「……あの、アニスは……」

「遺体は見つかっておりません。
 おそらくは――――――