「導師イオンをこちらに渡してもらおうか」

 静かな女性の声と、続いた銃声。
 の眼前で、イオンと自分を呼びにきたマルコが肩口を押さえて体制を崩した。

「……え?」

 瞬くを、イオンが懐に抱き込む。
 急に視界が暗くなったのは、イオンの行動のせいばかりではない。
 見上げれば、ライガをのせたグリフィンの大群が頭上を飛び交い、何頭かはすでにタルタロスへと着艦していた。

「……いけません、リグレットです!」

 空の一点を見つめるイオンの視線を追えば、片手をグリフィンに支えられ、宙に浮かびながらも譜銃を構える黒衣の女性が見える。その女性がリグレットだ、とが認識するより早く、イオンはを引きずるようにしてデッキを横切った。通路へのドアはほんの短い距離であったが、リグレットの放つ銃弾がイオンの足下ぎりぎりを掠める。自分達はリグレットから離れているはずなのに、銃弾は確実に近付いている気がした。耳もとを掠めた銃弾にが身を竦ませると、「威嚇射撃です。当ててはきません」とイオンが慰めにもならない言葉を囁く。

「ここはお任せします」

 ドアの横を通り過ぎるさいにイオンが囁くと、初弾で体制を崩していたマルコが「お任せください」と応えた。すぐに崩れた体制を持ち直すと、イオンとが通り過ぎた後、彼は通路へと続くドアを閉める。

「……あの人は……?」

「…………」

 どうなるの? と最後までは聞けなかった。
 見えなくなった背中に、戸惑いながらもはイオンに連れられて通路を走る。

「……とにかく、アニス達の所へ行きましょう」

「はい……」

 外に残った兵士が気になりはするが。
 今は自分達の身の安全を考えるほうが先だ。

 手を繋いだままではイオンが走りにくいだろう、とはイオンの手を振り放そうとしたが、逆に強く握り返されてしまった。