「様はそっちじゃないですよぅ!」
連行されるティアとルークに続き、タルタロス艦内の一室に足を踏み入れようとしたの手を、アニスが掴んで引き止める。
「え?」
森でアニスに『様』を付けられて呼ばれたのは聞き間違いではなかったのだな、と思いながらは首を傾げ、アニスに振り返った。
聞き間違いでなかった事はわかったが、その理由まではわからない。
「でも……」
兵に前後を固められ、促されるままに連行されるティアに、は視線を移す。
ティアも、が呼び止められたことにすぐに気が付いた。が、『連行』されている身としては、自由に動くことはできない。を振り返りはしたが足を止めることはなく、微かに眉をよせただけで、すぐに前を向いてしまった。
「アニス、は……」
はルーク達の仲間であり、離れたがらないし、また離れる必要もない。
イオンがそうフォローを入れようとすると、アニスは笑顔を張り付けてイオンを見た。
軽くウインクをひとつ。
おそらくは、『目配せ』というやつだろう。
から見れば十分に不信感を抱くものであったのだが、イオンには通じなかったらしい。イオンは小さく首を傾げると、ゆっくりと瞬いた。
「?」
「あ〜、あっちの二人と一緒がいいってのは、大佐から聞いています。
でも、その前にちょ〜っとあたしと来て下さい」
イオンにアイコンタクトが通じていないことはわかったが、アニスは構わずにの手を引く。も『少しの間だけの別行動』と保証され、逆らう理由がなくなったので、引かれるままに足を踏み出すのだが、と手を繋いでいたイオンが一緒に足を踏み出すと、今度はアニスが制止の声をあげた。
「イオン様はだめですよ〜。
お姫様みたいに可愛い顔してたって、男の子なんですから」
「「?」」
腰に手をあて、『ダメですよ』とポーズを決めるアニスに、とイオンは揃って首を傾げる。
アニスの言っている意味がわからない。
わからないが――――――どうやら『男の子はダメ』と言う事らしい。そこだけは理解できたので、イオンは森からずっと握っていたの手を離した。
「さあ、様」
「あ、はい……」
イオンが手を離すのを確認して、アニスは改めての手を引く。
にはアニスの『様』付けもわからないが、『男の子はダメ』という場所に連れていかれる理由もわからない。『男子禁制』の場所など、この軍用艦タルタロスにおいて、あるのだろうか?
疑問はつきないが、このまま通路で立ち止まってもいられない。
はアニスに促され、ティア達と別方向の通路へと歩き出した。
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しまった。壁紙が無い。