ルークとティアの連行を開始する兵士を見つめながら、は目まぐるしく思考を巡らせる。

 さて、どうしたものか――――――っとは首をかしげた。

 マルクト軍が補則した『国境侵犯』は2人。ルークとティアであって、はふくまれない。
 一応チーグルの森で行動を共にしていたので、仲間であるとジェイドには認識されているはずだが……どうやら自分は『連行』されないらしい。
 それでは困る。
 ルークと行動を共にしなければ『物語に関われない』し、そもそも生活にも困る。にはお金もなければ住む場所もない。国籍がないので仕事にもつけないし、必要最小限の知識もない。
 何がなんでも、ルーク達と一緒に連行されなければならない。……今日という日を生き抜くためにも。

「……あの」

「なんですか?」

 先ほどから一度も振り返らないジェイドの背中に恐る恐る話し掛け、思いのほか優しい声音で返されて、は戸惑う。

「私は、連行されないんですか?」

「連行されたいんですか?」

 むろん、『連行』などされないに越したことはない。が、今はそうも言ってはいられない。

「ルーク達と離れたくないんです」

「面白い事をいいますねぇ〜。
 彼等はいわば『犯罪者』ですよ?」

「……でも」

「あなたは民間人です。
 彼等との関係は知りませんが、ここで別れるのが賢明ですよ。
 国境侵犯は2人。3人ではないのですから」

 取り付く島がない。
 そもそも、嫌味なまでに頭と感の良いジェイド相手に、の咄嗟の気転は通じないだろう。逆に墓穴を掘ることになりかねない。
 しかし、ここで引く訳にもいかない。
 なんとか言い募ろうと言葉を探すに、救いの手は意外な所からあがった。

「ジェイド、彼女も乗せてはくれませんか?」

 とジェイドは揃ってイオンに顔を向ける。
 意外な……本当に意外な伏兵だった。
 イオンなら、まっさきに関係のないを巻き込まないよう、置いていこうと云うと思ったのだが。
 首をかしげるに少しだけ微笑み、イオンはジェイドを見上げる。

「僕は彼女のか……彼女の事が、少し気になるもので」

 イオンは何かを云いかけた。
 それから、それを誤魔化すように『云い方』を変えた。
 不自然なそれに気がついて、がジェイドに視線を移すと、ジェイドも同じようにの方を見ていた。

 オールドラントに来てから度々晒されることになった、好奇の目。

 イオンや村人の態度を見る限り、悪い事では無さそうなのだが……心当たりがないだけに、居心地が悪い事に変りはなかった。
 しげしげとを観察したあと、連行作業終了の報告を受けたジェイドがイオンに頷く。

「……わかりました」

「ありがとう、ジェイド」

 短く答えるジェイドに、イオンは微笑む。
 イオンの言葉が含む何かを、に見抜くことはできない。けれど、ジェイドにはわかったらしい。
 首をかしげながら戸惑うの手を、イオンが引いた。

「さあ、行きましょう」

「あ、はい……」

 イオンに手を引かれながら、はジェイドを振り返る。
 ルーク達を追い掛けるため、少し歩調を早くしたイオンにひっぱられているため聞き取れなかったが、アニスとジェイドが何やら話していた。