「みゅ〜みゅみゅう、みゅ〜う」

 の胸に抱かれ、『追放』の名の元、ルークと同行できることになったミュウが上機嫌で歌う。
 ルークは今にもミュウをから奪い取り、蹴飛ばしたそうな顔をしているが、ティアが睨みつけることで、その行動を制していた。
 すっかり胸をミュウの定位置としたも、可愛らしいミュウの仕種と、気を使って間をおかずに話し掛けてくるイオンとティアのおかげで、大分気分も落ち着く。

「お? あの子、おまえの護衛役じゃないか?」

 緑の森の中、一点だけ白い後ろ姿を見つけ、ルークがイオンに振り返る。
 指差された方向を見、その姿を確認すると、イオンは笑顔を浮かべた。

「はい。アニスですね」

 イオンの声が聞こえたわけではなかろうが、アニスはこちらを振り返り、達の姿を認めると、小さな手を振り回して自分の存在をアピールしている。
 まだそれなりの距離があるのだが、こちらに走り寄って来るアニスには首を傾げた。

「……そう云えば」

 ほとんど独り言のように呟くに、ルークは構わず先へ進み、ティアがそれを追う。その後を、ここまで殿をつとめていたジェイドが続いた。ライガの洞からずっとの手を握っていたイオンだけはを振り返り、続きを待つ。

「さっき、アニスがわたしのことを『様」って呼んだんだけど……?」

「え? アニスが、ですか?」

「はい。
 導師守護役がわたしに様付けって、変ですよね?」

 心底不思議そうに首を傾げているには悪いのだが。
 アニスが『様』をつけてを呼んだ理由がわかるイオンは苦笑いを浮かべる。
 ことの真偽がはっきりしない今、にそれを伝える訳にはいかない。

 首を傾げるを、どう納得させようか? とイオンが考えている間に、異変は起こった。

 アニスがルークとティアを挟み、ジェイドと向かいあった瞬間に聞こえた複数の足音。
 あっという間もなく数人の兵士に取り囲まれ、ティアは油断なく杖を構える――――――が、こと今にいたっては遅い。
 ティアが視線をに向けると、その視線はジェイドの背によって遮られた。

 ルーク達と分断された……と云うよりは、背に庇われている感じだろうか?

 沸き上がる違和感にが眉を寄せると、アニスは何ごともなかったかのようにジェイドに笑顔を向けていた。
 13歳と35歳のアイコンタクト。

「御苦労様でした、アニス。
 タルタロスは?」

「ちゃんと森の前に来てますよぅ。
 大佐が大急ぎで、って云うから、特急で頑張っちゃいました」

 てへっと場違いなまでに可愛らしく笑うアニスに、ルークが舌打つ。

「おい、どういうことだ!」

「そこの二人を捉えなさい!」

 どうやらジェイドの指示で自分たちは取り囲まれているらしい。そう理解したルークが振り返り、ジェイドを問いただすのと、ジェイドが兵士に指示を出す声が重なる。

「正体不明の第七音素を放出していたのは、彼等です」

「ジェイド! 彼等に乱暴なことは……」

「御安心下さい。何も殺そうという訳ではありませんから」

 イオンの制止の言葉に、ジェイドは感情の隠っていない微笑みを浮かべた。微笑んではいるが、まるで安心できないジェイドの表情に、はイオンの手を握りしめた。

「……二人が暴れなければ」

「……」

 続いたジェイドの言葉に、ティアが杖を構えた手を下ろす。
 ここで抵抗しては、屋敷まで送り届けなければならないルークにも危険が及ぶ。
 ルークにしても、こんな騙し打ちのような形で不様に殺されたくはないのだろう。素直に剣の柄に伸ばした腕を下ろしていた。
 それを確認し、ジェイドは目を細めて―――形だけ―――微笑む。

「いい子ですね。……連行せよ!」

 前半を心を解かすように優しく。
 後半は師団長としての威厳をもって、ジェイドは兵士に命じた。