「なんとかして差し上げましょう」
壁に叩き付けられる。
そう覚悟を決め、固く目を閉じ衝撃に備えるを、意外に柔らかな感触が抱きとめた。
「誰!?」
ティアの誰何の声に、は目を開く。
このタイミングでこの場にあらわれる人物といえば……『筋書き』を知るには、1人しか思い浮かばない。
肩にまわされた手がしっかりとの身体を捕まえているため、身動きは取れなかったが、聞き覚えのある声と、開いた目に飛び込んできた鮮やかな軍服の色に、それが誰であるのかは明白だった。
この『戦闘』以降、ルークの仲間として共に行動することになる『パーティーキャラ』にして、『アビス』における最大の『キーキャラクター』。
マルクト帝国軍第三師団師団長ジェイド・カーティス大佐。
「詮索は後にして下さい」
身長差があるため、胸にかき抱かれる形となったの足は宙に浮く。
腕一本での体重を支えている腕力にも驚いたが、間近く見えた深紅の瞳にも驚いた。
「私が譜術で始末します。
あなた方は私の詠唱時間を確保して下さい」
譜術を詠唱するため、細められた深紅の瞳には震える。
ジェイドはを腕に抱き、顔には微笑みを浮かべているが――――――その深紅の瞳だけは、かけらも笑ってはいなかった。
確かに微笑みを浮かべているのに、間近く見るに与える印象は『無表情』。
血のように赤い深紅の瞳には、人間らしい温もりも、表情も感じられない。
の怯えがジェイドに伝わったのか、ジェイドはを抱いたまま微かに笑みを深めた。緩められたジェイドの腕に、の足が地につく。
「偉そうに……」
が吹き飛ばされたさいに抜け落ちたカトラスを拾い、ルークはライガ・クイーンに向き直る。
ジェイドの言い方はムカツクが、相手は軍人。戦闘のプロだ。ジェイドが加勢するというのなら、彼に任せた方が安心できる。
なにより、ティアと自分だけではどうにもならないと、たった今思い知らされたばかりだ。
「あなたは後ろに下がっていなさい」
「は、はい」
ジェイドの腕から解放され、は指示通り後方に下がろうとして――――――別の方向から引っ張られた。
「え?」
力強く引っ張る力に、いったい誰の仕業だろうか? と見上げれば……猫のようなクマのような、なんとも奇妙な顔が頭上にある。ボタンの目があしらわれた、見覚えのあるそのオレンジ色の頭部に、これまた見覚えのある女の子の頭が覗いていた。
「アニス、彼女を任せましたよ」
「はい、大佐〜」
愛想よくジェイドに答えると、アニス―――の操るトクナガ―――はを抱きかかえて後方……イオンが隠れている場所よりも後ろに下がる。
ライガ・クイーンの寝室のようになっていた洞から出ると、アニスはを抱きしめたまま、中で行われている『戦闘』の様子を窺った。
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