「おいで、ミュウ」
「みゅ?」
が膝をつき、腕を広げると、呼ばれたチーグルの仔どもは素直にそれに従った。
ぴょんっと飛び跳ねて胸に飛び込んできたミュウを抱き、は立ち上がる。
『ゲームの通り』チーグル族が住処にしている大木に辿り着き、『筋書き通り』イオンがライガとの交渉を提案した。
そして次におこった『イベント』は、『ミュウファイアのレクチャー』ともいえる会話。
達は、チーグルの森を流れる川に立ち往生していた。
少々飛び越えるには無理のある川幅に、ルークは眉を寄せる。ティアは何ごとか思案しているのだろう……と思っていたが、が顔を向けるとティアは慌てて顔を反らした。
十中八九、ミュウを抱いたが羨ましかったのだろう。
そういえば、ミュウが通訳として同行することが決まった時、ここまでで見たことがないほど、彼女の笑顔は輝いた。
(可愛いもの好きだとは知ってたけど、ここまでとは……)
時々ミュウを盗み見るティアに、は苦笑する。
「ティア、ミュウを抱きたいなら、抱いてみる?」
「え? あ……わ、私はいいわっ!?」
の申し出に、ティアは力一杯首を横に振った。
可愛いもの好きと知られるのは、そんなに恥ずかしいのだろうか。
一瞬だけ輝いた顔を隠すように、ティアは無表情を装っていた。
「ってゆーか……なんで抱いてんだよ。
そんなブタザル、歩かせときゃいーだろ」
自分は面倒ながら、歩きを『強要』されていると云うのに。
『食料盗難』事件のそもそもの原因となったチーグルを腕に抱き、楽をさせるとは何ごとか。――――――といった所か。ルークのを見る目には、非難の色が滲み出ていた。
「?
たしか、ミュウって泳げなかったよね?」
水に関わる『イベント』がおこるたびに、ミュウはそう云っては怯えていた気がする。
が首を傾げながら、腕の中のミュウに確認をとると、ミュウは元気よく「ですの!」と答えた。
「わたしが抱いて川を渡ってあげる」
「ありがとうですの!
さんは、優しい人ですの!」
くりくりっと丸い目でを見上げ、ミュウはにっこりと笑う。
その横で、やはりミュウを盗み見ていたティアが眉を寄せた。
「?
どうしてチーグルが泳げないって、知っているの?」
「え? あ、あれ?」
ティアに聞かれ、は記憶を探る。
ミュウが泳げないというのは、彼の自己申告であったが……最初に云ったのは『いつのイベント』だっただろうか? と。
あれは、確か――――――
「……フーブラス川?」
「「はぁ?」」
浮かび上がった地名を、は口に出す。それを聞いたルークとティアは揃って首を傾げた。
「セントビナーの近くにある川の名前ですね。
はセントビナーの住民なのでしょうか」
1人冷静に分析するイオンに、は首を振った。
「いえ、そうじゃないと……思うけど、
なんでかな? 急に、そう思ったんだけど……」
「……本当に、大切なことは忘れているのに、
不思議な知識だけはあるみたいね」
ため息混じりのティアに、は苦笑を浮かべる。
これに関しては、笑って誤魔化すしかない。
「……そういえば、ミュウが泳げないの?
チーグルが泳げないの?」
「ボクが泳げませんの!」
つまり、チーグル族事体は泳げるらしい。
「でも、が抱いて渡るのなら、ミュウも川を渡れますね」
「はい。
……行きましょう」
橋がないので、川の中を歩いて。
宣言通り川に入ろうとする3人に、ルークは慌てた。
「マジかよ!?
靴もズボンも濡れるじゃねーか!」
俺はイヤだね! と続けたルークに、ティアは冷ややかな視線を投げる。
「それなら、あなたはここに残ればいいわ。
靴や服の汚れを気にする人は、足手まといになるから」
「……なんだとっ!?」
ルークとティアの、ほとんど恒例となっている睨み合いが始まった。
これが始まると、誰かが仲裁に入らないかぎりいつまでも睨み合っているのだが……今回は違った。
ルークは辺を見渡すと、何か思い付いたようにに振り返った。
「おい、ブタザル!」
ルークは断わりもなくの胸に手を伸ばし、その腕に抱かれたミュウのを奪い取る。
「おまえ、あの木の根元に火を吹け」
「? みゅ?」
柔らかい胸の中から、乱暴な方法で引き剥がされたミュウは、ルークの
意図が掴めず短い首を傾げた。
その仕種はティアから見れば可愛らしいものだったが、ルークには違ったらしい。ルークは眉を釣り上げると、目当ての方向にミュウを向け、その頭を思いっきり叩いた。
「おらぁ! さっさと吐けよ!」
「みゅみゅみゅぅぅぅ」
哀れを誘うミュウの泣き声と同時に、ミュウの口から小さな炎が吐かれる。その炎はゆっくりと川の上を進み、ルークが示した木の根元――――――に巻き付いている蔓を焼いた。
「よーし、これならどうだ!」
木が倒れて出来上がった即席の橋を示し、ルークは得意げに胸を張る。
それを見て、イオンが感嘆の声をあげた。
「なるほど。木の根元が腐っていたんですね。
ルークは気転がききますね」
「……へっ、こんなの大したことじゃねーよ」
得意満面のルークは、ミュウをに向かって投げ捨てる。
弧を描いて腕の中に落ちてきたミュウを抱きとめるの横で、ティアがすかさず口を開く。
「そうね、第一ミュウのおかげですものね」
「んだとっ!?」
上機嫌の所に釘をさされ、ルークは憮然と眉を釣り上げ、ティアを睨む。ティアはティアで、すでに慣れたもの。
しれっと「大したことじゃないんでしょう?」と言い返すと、それ以上ルークに構うことなく、『橋』の安全を確認するために、一番に川を渡った。
「……大丈夫みたいね。
導師イオン、まいりましょう」
「あ、はい」
ティアとルークの剣幕に、さすがに少々気おされながら、イオンは乾いた笑いを浮かべた。
「ルークも機嫌を直して、一緒に行きましょう」
「行くですの〜!」
の腕の中から、空気をまったく読まないミュウが楽しそうにルークを誘う。
その無邪気に声に、ルークは威嚇するように大声を出した。
「っるせぇ!」
ルークはミュウに対して云っているのだが。
ミュウを抱くにしてみれば、自分に云われているように錯覚を起こす。
ルークの大声に、の肩がびくりっと震えた。
「あ、へ?」
驚いたの目と、が驚いたことに驚いたルークの目が合う。
怒鳴りつけた相手はミュウであったのに、反応を示したのは、それを抱いている。予期せぬ所からでた反応に、ルークは戸惑いの色を見せたが、すぐにそれを隠すように背を向け、橋を渡った。
「みゅぅぅぅぅぅ」
の腕の中で身を小さくするミュウの頭を撫で、イオンはの手を握る。
「さあ、も」
軽く手を引くと、怒鳴り声に驚いて固まっていたがゆっくりと反応を見せた。
「あ、はい……」
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そろそろ省略イベントも入れないと、終わる気がしない(笑)
いや、本来テンポを考えてガシガシ削っていくべきことなんですが。
私が文章書くの下手なだけです。