の手を借り、立ち上がった導師イオン。
 その深い緑を思わせるイオンの黒瞳に見下ろされ、は瞬いた。

 こうして実際に目の前に立たれると、やはり違う。

 『キャラクターデータ』としてイオンの身長が166cmあるのは知っていたが、『ゲーム画面』ではそんなことは解らない。ガイやジェイドより低かったのは確かだが、数字だけで考えれば、ルークとイオンの身長差はわずか5センチ。ポリゴンから受ける華奢な14才の少年という印象と、目の前のイオンの印象は大きく異なる。
 男性としては華奢な体つきと、それに似合った愛らしい顔だち。
 しかし実際に目の前に立つ導師イオンは、の身長を越していた。

 見上げた先にある整った愛らしい顔は、一見女の子のようで、14歳としては歳相応にみえるのだが……もしかしたら、イオンは14才としては背が高い方なのだろうか?

 そんな事をのんびりと考えていると、イオンは不思議そうに首を傾げた。

「あの、……さん?」

「はい?」

 イオンにつられてが首をかしげると、イオンは少しだけ言い難そうに唇に指をあてる。
 少しだけ考え込むように黙った後、意を決したように口を開いた。

「失礼なことを聞きますが、あなたの髪の色は……染めているんですか?」

「?」

 不思議なことを聞かれて、は瞬く。
 の髪は日本人としてはあたりまえの『黒』だ。
 現在では日本人にも色を抜いたり、染めたりする者もいるため、全員の髪が黒いとは云えないが……の髪は黒い。染めてはいないし、色を抜いてもいない。むしろ、自然な今の色が一番好きだし、綺麗だ。これは誇れると思う。

 質問の意図がつかめずが首をかしげると、イオンは質問を変えた。

「あなたのお父上の髪の色は、あなたと同じですか?」

 ますます解らない。
 が、答えられない自分のために、イオンが質問を変えてくれてようだったので、は素直に答える。

「父とわたしは同じ色ですよ。
 黒髪です。染めてもいないし、色も抜いていません」

 それがどうかしましたか? と首をかしげながらイオンを見つめると、イオンは考え込むように眉を寄せてしまった。

「……イオン様?」

「いえ、なんでもありません。
 それより、おかしなことを聞いて、すみませんでした」

「……それはいいんですけど」

 誤魔化すように微笑むイオンに、はますます首を傾げた。が、いつまでものんきに立ち話をしている訳にはいかない。
 は可能な限り物音を立てないように、息をひそめ森を進んできたのだが、森の中には魔物や獣が徘徊している。イオンに戦う力があるとはいえ、二人だけで森に留まることには危険がともなった。

「とにかく、森を散策するのはかまいませんが、
 わたしの仲間が来るのを、森の入り口で待ちましょう。
 2人で行動するよりも、安全です」

「?」

 元来た道を戻ろうと、イオンの手を引くと、イオンは首を傾げた。

「……僕を、連れ戻しに来たのではないのですか?」

 不思議そうに首を傾げるイオンに、は『何か変なことをいいましたか?』とさらに首を傾げる。それから、事もなげに付け足した。

「だって、イオン様は……
 エンゲーブに連れ帰ったって、また1人でここに来るでしょ?」

 1人で行動を起こしたイオンのこと。
 自分の納得できる答えを得るまでは、何度でも危険を冒すはずだ。
 それならば、目に見える範囲にいた方が、よほど安心できる。

「……はい、すみません」

 出逢ったばかりのに、難無く見すかされ、イオンは少しだけ恥ずかしそうに微笑んだ。