「やった!
 大成功〜っ!!」

 崩れ落ちる橋と、譜術障壁を発動させたが、その爆風に煽られて船体の向きをかえたタルタロスに、は隣のウルシーに抱き着いて喜びを表現した。狭い車内でなければ、軽業を2・3披露しそうなの喜びように、しかしウルシーとノワールは渋面を浮かべた。

「……また、威力があがってないでゲスか?」

 まさか、たった一箱の爆弾でローテルロー橋が落とせるとは思ってもみなかった。
 ウルシーとしては橋に亀裂をいれさせる程度であればよい。人間が歩いて通れる程度の亀裂であっても、タルタロスのような大形艦で橋を渡ることはできなくなる。そうなれば、あちらが足踏みをしている間に自分たちは逃げることができ、一般の旅人や辻馬車を使う人間も、橋を渡ることは可能だった。

「ん? やっぱ、人間日々の進歩は大切だと思うの〜」

「「…………」」

 満面の笑顔を浮かべるに、ノワールとウルシーは確信した。
 たった今、景気よく放出したものは……すでに『進歩の思い出』であることを。はすでに、今以上の威力をもつ『花火』を作り上げている。

 いわゆる在庫一斉処分。

 爆弾というものは、解体するよりも使ってしまった方が安くあがる。
 自身の造り出す『花火』に、よくわからない悪趣味な装飾を施すが、装飾されていない『花火』を持ち出したことも『処分を狙っていた』証拠といえた。

「ま、いいじゃないか。
 おかげでまんまと逃げられたんだ」

 うっかり流通の要とも呼べる橋を、完膚無きまでに落としてしまったが。

「……そうでゲスね」

 ここで『花火』を盛大に使い、の欲求も満たされた。
 これでしばらくは……自分達の町で小火さわぎをおこすこともなくなるだろう。

 そう自分たちを納得させて、ノワールは馭者席に座るヨークにスピードを落とすように指示を出した。









 さて、大喜びをしている人間が、ここにも1人。









「すげぇっ! はくりょく〜!」

 左の窓に張り付いてタルタロスと馬車を見守っていたルークは、タルタロスが通り過ぎると、今度はティアとを押し退けて右の窓に張り付く。
 タルタロスと辻馬車がすれ違うさい反射的にティアに抱き着いたが、ホッと息を吐きながら体を離すと、ティアは自由になった体でルークを無言のまま座席に引き戻した。

「あれが、タルタロス? 大きい……」

 息を吐きながらが胸を撫で下ろすと、前の席に座っていた子どもが得意げに口を開いた。

「マルクト軍の最新型陸上装甲艦タルタロスだよ! 
 って云っても、『タルタロス』は第三師団に与えられ――――――」

「マ、マルクト軍!?
 どうしてマルクト軍がこんなところをうろついているんだ」

 譜業が好きなのだろう。タルタロスについてに解説を始めた少年に、ルークは割り込むように声を荒げた。
 無理もない。
 今のルークにとってマルクトは敵国だ。
 7年前にルークを誘拐し、記憶を失わせたのもマルクトのせいになっている。

 ルークの剣幕に驚き、母親の胸に抱き着いた少年にかわり、母親がに説明をしてくれた。

「マルクト軍がこの辺りにいるのは当たり前ですよ。
 何しろ、キムラスカのやつらが戦争をしかけてくるって噂が絶えないから、
 この辺は警備はとくに厳重になってるんです」

 その説明に、の隣に座るティアが食い付く。

「……ちょっと待って?
 ここはキムラスカ王国じゃないの?」

「何云ってんだい。ここはマルクト帝国だよ。
 マルクトの西ルグニカ平野」

 に対するものとは少々違う口調で、母親はティアの疑問に答えた。
 その答えに、ティアの顔色が目に見えてかわる。

「じょ、冗談じゃねーぞ!
 この馬車は首都バチカルに向かってるんじゃなかったのか?」

「むかっているのはマルクトの首都。
 偉大なピオニー九世陛下のおわすグランコクマだよ」

 大声をあげるルークの隣に座りながら、は逆隣のティアに顔を向けた。
 の視線をどう受け取ったのか、ティアはバツが悪そうに目を反らす。

「……間違えたわ」

「冷静に云うなっつーの!
 なんで間違えるんだよ」

「土地勘がないから。
 あなたこそどうなの」

「俺は軟禁されてたんだ。
 外に出たことねーんだから、わかるわけないだろ」

 耳元で始まったティアとルークの言葉による応酬に、は耳を塞いだ。