「な、なんだ!?」
突然の砲撃音に、さしものルークも飛び起きる。
もローテルロー橋を渡り終えるあたりで、そろそろか……と思って構えてはいたが、その予想以上に大きな砲撃音に、一瞬だけ肩を震わせた。
窓に張り付くようにして外の様子を伺うルーク。そのすき間から、も外を――――――タルタロスと赤い馬車を見る。
「……ようやくお目覚めのようね」
「お、おい!
あの馬車攻撃されてるぞっ!?」
普通ならば食ってかかったであろうティアの軽い嫌味を、ルークは聞き流して窓の外を凝視した。
興味をひくものが目の前にあれば、他はどうでも良いらしい。
つくづく子どもだ……と呆れながら、はルークを冷ややかに見る。窓の外に夢中になっている子どもは、その視線に気が付く事はなかった。
「軍が盗賊を追っているんだ!
ほら、あんた達と勘違いした漆黒の翼だよ!」
馬車の外から馭者の声が聞こえる。
どこか誇らし気に聞こえるのは、相手が世を騒がしている漆黒の翼だからだろうか。
そう思い、は首をかしげる。
「……漆黒の翼って、悪どく儲けている所からしか盗まないんじゃなかった?
いわゆる義賊とかいったと思うけど……」
『義賊』といえば、普通は庶民の味方だ。
その漆黒の翼が軍に追われているのを喜ぶということは、馭者も『悪どく儲けて』いる1人なのだろうか。そう考えれば24000ガルドの運賃と引き換えに、後々100000ガルドで買い戻す事になるペンダントに対して、差額としていくらかよこさないのはおかしい。そもそも、ティアとルークはこの後、途中で馬車をおりるが、ペンダントは返してくれなかった。……とはいえ、親切心からか金ではなく品物と引き換えに馬車に乗せてくれたのも、この馭者なのだが。
タルタロスに追われる4頭の馬にひかれた赤い馬車を見つめ、は呟く。
その横で、ティアは眉を寄せた。
「?
あなた……どうして漆黒の翼のことを知っているの?」
「え?」
うっかり、余計なことを云ってしまった。
自称『記憶喪失』であるが、彼等の事を知っているのはおかしい。
「な、なんで……かな?
そう、思ったんだけど――――――
『そこの辻馬車! 道を空けなさい!』
なんとか言葉を探し、ティアを誤魔化そうと考えている間に、聞き覚えのある声が響いた。
マルクト帝国第3師団師団長ジェイド・カーティスの声。
は反射的に窓の外を見る――――――と。
すれ違う赤い馬車に、金色の髪を見た。
『巻き込まれますよ!』
続いたジェイドの声に、辻馬車は大きく街道から逸れた。
簡単な舗装すらされていない平原には、小石も多い。街道を走っていたのとは比べ物にならないほど車体を揺らし、馬車は急停止する。その勢いに座席から飛ばされそうになるを、ティアは自分の元に引き寄せて支えた。ちなみに、窓にはりついていたルークはティアに放置され、したたかに頭を打つ。
ティアに守られ、どこもぶつける事のなかったは、ティアにお礼を云うよりも先に窓を振りかえった。
「……!?」
窓いっぱいに広がる白金の輝き。
近すぎて、タルタロスの全貌は見えない。というよりも、巻き込まれないのが不思議なほどに、馬車とタルタロスの間に距離はない。ガタガタと激しく揺れる車内で、は無意識に近くにあるもの……ティアの体に抱き着いた。
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