――――――ND2002
栄光を掴む者、自らの生まれた島を滅ぼす、
名を、ホドと称す、
この後、季節が一巡りするまで、
キムラスカとマルクトの間に戦乱が続くだろう――――――
の日記。
その1ページ目には、必ずこの言葉―――ユリアの預言―――が書かれている。
最終ページまで日記をつづり終わっても、新しい日記を用意する度に同じ言葉を書いた。
戒めるように。
また、忘れにように。
ND2002……当時4才であったには理解できなかったが、ND2018……20才になった今ならば理解できる。
古代イスパニア語で『栄光を掴む者』は『ヴァンデスデルカ』。
当時の許嫁の名前も『ヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデ』といった。
『ヴァンにーさま』
短い手足を懸命に振り、は許嫁の少年を追い掛ける。
『許嫁』の意味は理解していなかったが、回りの大人達は少年のことをに『大人になったらの旦那様になる人だ』と教えてくれた。
『旦那様』の意味も理解できなかったが、少年の母親がにもわかる言葉で教えてくれた。
『ずっと、を守ってくれる人よ』と。
事実、少年はをとても大切にしてくれた。
幼い文字で綴られた日記の、最後の日付けまでは。
ND2002。
『大好きなヴァン兄様』と、もう1人の幼馴染みとの優しい思い出ばかりが綴られた日記は、そこで終わっている。
日記を再開したのは、かつてのホド諸島の住民があつまった隠された町に辿り着いてからだ。そこに辿り着くまで、には日記を書く余裕すらなかった。
ああ、夢を見ているんだ。
そう理解し、は日記を抱き締める。
今抱きしめている日記は、本棚の一番奥にしまったはずで、現在の手許にあるはずはない。大切な日記は、余所者の侵入を許さない、不可侵の町に置いてあるのだから。
小さなが追い掛ける少年の影を、は見つめる。
顔は見えない。
自身、『ヴァン兄様』の顔を覚えていないからだろう。
『ヴァンにーたま、まって……あっ!?』
幼いが転ぶと、少年の影は増々遠ざかってしまった。
『にーたま!』
瞳いっぱいに涙を浮かべてが顔をあげる、と少年の影は2つに別れた。
1つの影は立ち止まる事なく歩いていくが、もう1つの影は立ち止まってが追い付くのを待っている。
『ガイにーたま……』
立ち止まってくれた少年は、けれどを助け起こしに戻っては来ない。
彼の顔もまた、逆光ではっきりとは見えなかった。
ただ、と同じ金色の髪をしていることだけはわかる。
ガイラルディア・ガラン・ガルディオス。
のもう1人の幼馴染み。
『ホド消滅』という曖昧な情報ならば、自分のようにどこかで生きているかもしれない。そう希望を持てるが……ガイラルディアはの記憶に有る、唯1人の死が確定している少年。
当時戦争をしていたキムラスカ・ランバルティア王国のファブレ公爵に討たれたというのは、少し調べれば簡単にみつかるほど有名な話だった。
「……ガイ兄様
絶対に、仇はとってあげるからね」
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