「……4人?」

 予想外の発言に、は首をかしげる。

 おかしい。

 たしか、ゲームに出てくる盗賊団『漆黒の翼』は男女3人だったはずだ。女性はノワールという胸の開いた衣装をきた人物が1人で、ほか2人の男キャラは名前も覚えていない。これが終盤であったのなら、アッシュも数えられているのかも……と思えるが、現時点でアッシュと漆黒の翼につながりはないはずだ。

「……あんた達は3人連れか」と、森の出口で出逢った馭者は達の人数を数えてから、ホッと息をはいた。

「……俺をケチな盗賊野郎と一緒にすんじゃねぇ」

「そうね、相手が怒るかもしれないわ」

「あのなーっ!」

 とても出逢って数時間とは思えない見事なボケとツッコミを披露するティアとルークに、が笑う……と、ルークに睨まれた。
 こういう仕種も、ルークにとっては『莫迦にされた』と映るのだろうか?
 本当に、扱い難い年齢で困ってしまう。
 一度出してしまった微笑みを引っ込める事も出来ず、ルークに睨まれながらの微笑みは乾いた笑いにかえた。

 ここまでの道のりで、どちらかと云えばフォロー役に回っていたと睨み合を始めたルークを無視し、ティアが馭者の前に進みでる。

「私達は道に迷ってここに来ました。
 あなたは?」

「俺は辻馬車の馭者だよ。
 この近くで車輪がいかれちまってね。
 水瓶が倒れて、飲み水がなくなったんで、ここまで汲みに来たのさ」

 『辻馬車』という言葉に、ルークは視線をから馭者に向ける。
 さすがに、今のルークの思考ならば誰にでもわかるだろう。
 ルークは馭者と話すティアの横に移動した。

「馬車は首都まで行きますか?」

「ああ、終点が首都だよ」

「乗せてもらおうぜ!
 もう歩くのはうんざりだ」

 終点の名前を聞き、ルークが間をおかずに言葉を挟む。
 その言葉に、ティアも唇に手をあてて考えはじめた。

「そうね。私達に土地勘はないし……
 お願いできますか?」

「首都までとなると1人12000ガルドになるが、持ち合わせはあるのかい?」

「……高い」

 にはガルドの価値は理解できないが。
 ティアの云う『高い』が『持ち合わせがない』であろう事は解る。

 世界中に食料を供給しているエンゲーブでリンゴが44ガルド。日本のスーパーの安売りで99円。ということは1ガルド2円ぐらいの価値だろうか……とは考えて、それを否定する。エンゲーブで売られているリンゴは、他の町で売られているものと比べれば卸値に近いはずだ。1円で計算しても12000円。2円であれば24000円。それかける人数分となると……36000〜72000円。が増えた分を差し引いても、とても16才の少女が持っている金額ではない。

「そうか? やすいじゃん」

 が簡単に計算をし、『高い』と納得したところでルークが安易に答えた。
 確かに、王位継承権を持っている人物にして見れば『安い』かもしれない金額だ。
 けれど今は、ルークの頼みの綱といえるガルドはない。ティアが元から持っていたものと、渓谷を抜ける間に魔物が落とした分だけだ。とてもではないが、36000ガルドはない。すべてを掻き集めても、1人分すらないのだ。
 貴族に扶養されたルークとは違い、ティアにそんな金額はだせない。

「首都についたら親父が払うよ」

「そうはいかないよ。前払いじゃないとね」

 軽く後払いを持ちかけるルークに、馭者は渋面を浮かべた。
 ナタリア曰く、『町の不良のような格好』をした『金を軽んじる』少年に、警戒しているのだろう。

 自分でお金を稼いだ事のないルークに、金の持つ価値は理解できない。
 逆に、労働により日々の糧を得る金を稼ぐ馭者は、金の価値を痛いほど理解している。
 自分の提示した12000ガルドという金額が、ティアのような少女にとって、どれだけの大金であるのか……馭者は承知しているのだ。ティアは『高い』と云ったが、馭者にも見る目はあるし、鬼ではない。『道に迷った』という少女に対し、多少の手心を加えて安く持ちかけた。
 土地勘のないティアには首都への距離がわからないが、には『推測』できる。『戦争イベント』でエンゲーブからローテルロー橋までの徒歩の距離。どんなに急いでも3日はかかった。それにプラスしてテオルの森を抜けて首都グランコクマへ。馬車の速度はわからないが、馬にも馭者にも休憩は必要だ。少なく見積もってもまる一日以上は馬車の中にいることになるだろう。そう考えれば、1人24000円の運賃は決して高くはない。

 ティアは首の後ろに手をまわすと何かを外し、ルークの発言に不快気に眉を寄せた馭者に手を差し出した。

「……これを」

 ティアの掌に乗せられたペンダントに、馭者は目を見開く。
 の位置からは良く見えないが、月明かりにキラリと輝くペンダントが見えた。

「こいつは大した宝石だな。よし、乗ってきな」

「へぇ……おまえいいもの持ってんな」

 馭者の手に乗せられたペンダントを覗き込み、ルークは感心する。
 金の価値が解らなくとも、ルークは『贅沢』を知っていた。そのルークが『いいもの』と評価するのであれは、本当に『いいもの』なのだろう。

「これでもう、靴を汚さないですむわ」と付け足すルークを、ティアは無言で睨み付けた。