「月明かりって、意外に明るいのね……」
現代の日本では、街灯や家々からもれる室内灯の方が明るく、月明かりも星明かりも気づけなかったが。
満点の夜空にぽっかりと浮かぶ月は、煌々と達を照らしている。
むろん、陽光にかなうはずはなく、夜道を歩くのに困らない程度の明るさだったが。
「でも、木陰に入ったら月明かりは見えなくなるわ。
暗いから、足下に気をつけて」
木陰に入るもなにも、森の中を進む達にとっては、どこもかしこも『木陰』になるのだが。時々ぽっかりと天に抜けた木々の間からさす月明かりを頼りに、ティアは足下を確認しながら進む。
「、歩き難くはない?
私は夜歩きの訓練も受けたから大丈夫だけど……」
「ん、夜の森って怖いけど、平気。
ティアが道を作ってくれてるから、歩きやすいし」
先頭を歩くティアの歩みは遅い。
後続のとルークのために下草を踏み均しながら進んでいるので、当然といえるだろう。つい先ほど、『歩くのが遅い』と癇癪をおこしたルークが先頭を歩き、見事に転んで渓谷に住む魔物に見つかっていた。今はそれにこりたのか、ルークは大人しく最後尾を歩いている。
「けっ」
とティアのやりとりに、小さくルークが舌うつ。
『お子さま』はとティアのやり取りが不満らしい。この場合は、自分も会話に入りたいのだろうか? 7才の子ども……それも、『男の子』の気持ちなど、には解らない。解らないが、放っておくこともできない。
また癇癪をおこし、渓谷に住む魔物に勘付かれては面倒だ。
「ルークは平気?
ちゃんと足下を見て……」
「わーってるよ!
さっきのはちょっと油断してただけだ!」
扱い難い。
会話に入れなければ、入れないで拗ねる癖に、気を使って会話を振れば、鬱陶しそうに眉を寄せる。不愉快そうな表情を浮かべるぐらいは我慢できるが、虚勢をはるために声を張り上げるのはなんとかならないものだろうか。こでれは本当に魔物に気づかれてしまう。
「夜の森で油断は禁物よ。
民間人のはともかく、あなたはあの男に剣術の指南を受けたのでしょう?
魔物の気配にぐらい、気づいて」
「なにっ!?」
に続いたティアの言葉に、ルークは声を荒げた。
(……仲、悪いなぁ)
内心でため息をはきながら、はルークをなだめる。
(これで、終盤ラブラブなんだから、不思議……
ってか、ラブラブな二人を見た後に序盤の険悪な二人って……ある意味で新鮮かも)
むしろ、笑える。
などと考えていたら、足下が疎かになったらしい。
は木の根に躓き、ティアの背中に倒れこんでしまった。
「あっ!?」
とっさにティアに肩を掴み、転倒することは免れたが、突然のことにティアも驚いただろう。目を丸くしてに振り返った。
「、本当に大丈夫?」
「だいじょぶ、大丈夫……だよ?」
体勢を整えながら乾いた笑いを浮かべるに、ティアは苦笑を浮かべ、左手を差し出してきた。
「……手を。
また突然体当たりをされては、たまらないから……」
「あ……はい。すみません……」
差し出せれたティアの手を握り、は小さく肩を落とす。
これでは、ルークの事を『子ども』と云えない。
ある意味で、一番子ども扱いを受けているのは、自分なのだから。
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虫食いのレプリカ編でラブラブなものを書いた後に、アクゼリュス編で大佐とのやりとりを書くのも新鮮だと思います(笑)