目の前の既視感を覚えるやり取りに、は小さくため息を漏らした。

(あたりまえ、か……)

 既視感を抱くのは。
 ルークとティアにとっては『はじめて』のやり取りであるが、にとっては違う。
 にとって、二人のこのやりとりを見るのは2度目だ。

 一度目はテレビの画面越しに、コントローラーを握りながら見た。

「なんとか云え!」

「……黙れと云ったかと思えば、なんとか云え……とはね」

 ルークの勝手な云い分に、ティアは深く息を吐く。
 に見せていた親身な態度と、ルークに見せる態度は明らかに違う。
 しかし、それはティアのせいではない。
 ルークがそういう態度を他人に取らせるようにしてしまうのだ。
 ゲームを通じて見ても序盤のルークの性格はすごかったが、実際に目の前でやられると……さらに酷く感じる。
 可能な限り『イベント』を妨げないように、と少し離れて二人のやりとりを見ていたと、ルークに背を向けたティアの目があった。小さく肩を竦めるティアに、は苦笑を浮かべるしかない。

「話はおいおいにしましょう。
 あなた、何も知らないみたいだから、ここで話をするのは時間の無駄だと思うわ」

「じゃあ、この後……」

 不意に言葉を区切るルークに、とティアは首を傾げてルークに視線を移す。
 二人に同時に見つめられたルークは、眉を寄せてを指差した。

「誰だ、おまえ?
 うちのメイドじゃねぇーし、冷血女の仲間か!?」

「……とりあえず、人を指さしちゃいけません」

 なんとも間の抜けた返答を返しながら、はルークに歩み寄る――――――と、ルークはから数歩下がった。
 どうやら、『お子さま』は『お子さまなりに』、という不審人物に警戒しているらしい。意外にも、ティアよりも正しい状況判断と言える。

「……彼女は『』。
 私達の疑似超振動に巻き込まれて、記憶を失ってしまったらしいの」

 が『思い込ませた』説明を、ティアがの代わりにルークに語る。
 この調子で『思い込み』がの出自を作り上げてくれれば、楽だ。が嘘をつく必要もない。

「わたしとルークさんの事は、ティアさんが家まで送ってくれるそうです。
 だから、それまでの『旅仲間』って事になりますね。
 よろしくお願いします」

「ルークさん」と続けながら、はルークに微笑む。
 その微笑みを受けて、ルークはぷいっと顔を背けた。

(……ホント、子どもだ……)

 初対面の人間に愛想よく微笑まれ、対応に困って顔を反らすなどと。
 人見知りをする子どもの反応以外のなにものでもない。
 とはいえ、これから成長期を迎えるのであろうルークの体格からは、とても『可愛い』などという印象をに与えてはくれないのだが。

「『ルーク』だ。
 『さん』なんてつけんな! めんどくせー」

「じゃあ、『ルーク』で」

 眉を寄せたくなるような物言いだったが、はそれをおくびにも出さず、ルークに微笑む。

(ルークって、よく考えたら変?
 普通、『おぼっちゃま』って、『ルーク様と呼べ』じゃないのかな?
 ガイが呼び捨てなのは、なんとなく解るけど……)

 屋敷という狭い世界で7年を過ごしたルーク。
 『自分より上』の人間といえば、両親と王女ナタリア。あと、公爵の屋敷に訪ねて行く事はないと思うが、インゴベルト王だけだろう。尊敬する剣の師匠ヴァンとはいえ、身分的にはルークよりも下だ。その圧倒的に『自分より下』の多い世界で育ったルークが、出自不明の明らかに『下』と思われるに対して呼び捨てを許すというのも不思議なものだ。……そもそも、この素行の悪い話し方も不思議といえば、不思議なのだが。

「あの、?」

「はい?」

 が考えている間に、ルークに今度の行動を説明し終わったティアが、の隣に歩み寄る。

「私のことも呼び捨てでいいわ。
 たぶん、あなたの方が年上だと思うし……私達は『旅仲間』になるんだから」

「……じゃあ、『ティア』で?」

「ええ」

 確認するようにが『さん』を取ると、ティアは嬉しそうに微笑んだ。