微かに揺れたティアの瞼に、は息をひそめる。
とりあえず自分の存在を、ティアにどう説明しようか?
深く考えずに『夢見て』しまったのは良い。
これはもう病気のようなものだし、治らない。
治すつもりもないし、中毒性があるから、手後れだ。
まず問題なのは、自分の出自について。
どう見ても『日本人』なんだか、この世界では『かわった服装』だろう。
当然、こんな軽装で、なぜ魔物もいる渓谷にいるのか、ということになる。
ついでに、戦闘経験なんて皆無だ。
よくある夢小説のように、いきなり戦えたりしない。あまつさえ、実は最強☆ なんてこともない。
フォニック文字もかけない。
もしかしたら読めなくもあるのだろうか。ゲームで表示される台詞や書物に書かれた文字は常に日本語で、それが当たり前だ。が、『アビスの世界』にはフォニック文字という独自の言語がある。宿屋にはフォニック文字で書かれた『INN』という文字があったし、街の中にある『落書き』もフォニック文字だった。
『プレイヤー』に情報としてあたえる部分は『日本語』だったが、背景などに盛り込まれた『アビスの世界』の中の『わき役達の生活』が覗ける部分はすべてが『フォニック文字』だ。もしかしなくとも、がこの世界で向き合うべき『文字』は『フォニック文字』という事になる。
フォニック文字を母国語として学んできたオールドラントの人間とは違い、にフォニック文字を簡単に読む事は出来ない――――――と思い至り、は背中の鞄をさぐる。
中に入っているのは、財布―――日本円なので、オールドラントでは使えない―――とお気に入りの時計―――オールドラントの自転周期は24時間なので、こちらは使えるはずだ。ただし、1時間=60分、1分=60秒であるのなら―――ハンドタオルとティッシュ、その他はこの際割愛する。
(……あった)
目当ての物をさぐりあて、はホッと息を吐く。
青い表紙には、赤い文字で『はじまりの預言』と書かれている。
ゲームと同時に発売されるため、中盤もしくは序盤までしか『攻略』が載っておらず、『役にたたない』『信用できない』と定評のあるシリーズの『攻略本』だ。
(たしか、この攻略本に……)
ぱらぱらとページをめくり、目当てのページをさぐる。
『まずは攻略本にたよらず、自力で楽しむ』主義のは、『攻略』につまった中盤以降にこの本を購入した。
結局、中盤の最初の方までしか載っていない攻略本はにとって必要な情報はなく、『役立たず』のレッテルを張られていたのだが……たしか、このシリーズには『攻略』以上のお楽しみ要素がある。
(載ってたと思うんだけど……?
あ、あった)
最終ページにコラムとして全面を使い、音符のような形をした『フォニック文字』とアルファベットの対応表があった。
英語は得意ではないが、これでなんとか『解読』はできる。『読む』ことに非常に時間は掛かるが、そのあたりは誤魔化そう。
当面の『字が読めない』という怪しさ大爆発な問題を解決し、は攻略本を鞄の中にしまう。
安堵のため息をついた後、再び足下のティアを見下ろした。
先ほど微かに震えた瞼は、いまだに開かれる気配がない。
まだには、ティアが目覚めるまで考える時間が残されていた。
(ティアをどう言い含めて、旅に同行しようか)
ティア達に『同行』できなければ、『夢見る』意味がない。
出逢いたい『キャラクター』達と、『お知り合い』になる機会もなくなってしまう。
(……お約束の『記憶喪失』ってことにしておこうかなぁ?)
気軽く『夢みて』しまったことを少しだけ後悔し、は小さくため息をはいた。
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個人的に、Vジャンプの攻略本は、『攻略』よりもデザインが好き(笑)
GC版シンフォニアの攻略本は、綺麗ですよ。飾りに葉っぱとかが使われていて、すごく『シンフォニア』って雰囲気で素敵です。