蒼く暗い、そら。
其の中でもきらきらと輝く星屑たち。
そういえば。人間という生物は、死ねば在れになると信じているらしい。


「……くだらねぇ」


この街の中でも特に高い建物の屋根。闇夜を見つめながら、小さく呟いた。
地上の生き物は、魂などという球体を持っている。そしてその球体は、器が滅びても消えない。
近くにあった器に入り、己の新しい器が生まれるまで待つのだ。

だから人間は、星になどなれやしない。もちろん、他の生物も。
もし星になれるというならば……それは天界の住民くらいか。

何故なら彼等には魂がないのだ。ソレに加えて器もない。
彼等は創造主の吐き出した感情と言葉がそのまま実体化した存在。
しかも其の感情と言葉が薄れたとき。若しくは使われなくなった時。彼等は忽然と姿を消す。
……かき消されたというべきか。
彼等が其処に居たという記憶は残るが、其処にあったはずの身体は一切残らない。
つまりは身体も着衣も全てが消され、ただ、周囲の者達の記憶にだけ残るということ。

彼等はソレを『創造主の元へ還った』というけれど。
たとえばソレを、人間達の言う『死』に当てはめることができるのならば。
……残された者達に、『掻き消えたアイツは、夜空の星になったのだ』というのも悪くはないだろう。




「綺麗な空だねぇ」

ぼんやりと下らない思考に身を任せていると、不意に声を掛けられた。
気配だけでも相手なんかはわかる。背後の奴を振り返ることなく、ぐっと背伸びをする。
屋根の上で座りっぱなしだった所為なのか、腰がぐきりと音を鳴らせた。

魂も器も持たない存在なのに、まるで人間と変わらない一瞬。
別に人間が高尚な生物だなんて一切思わないけれど。
ただ、それでも唯一切望してしまうことは。

「……何か、あった?」

無言の俺に、奴が不穏そうな声を掛けてきた。
きっと振り合えれば、心配そうな表情を浮かべているだろう。 思い出すことも億劫なほどの付き合い。其の時々の表情など、考えなくても浮かんでくるから。
ゆっくりと立ち上がり、深く息を吸う。昼間よりは多少冷たい夜風が、頭を覚ましてくれるようだ。
それでも、指先が、つま先が、ときおり微かに揺れて、イロを失くそうとするから。

「もう、時間がないんだ」

背後の奴に、顔を見ずに話しかける。
俺の短い言葉を理解することは容易い。小さく息を呑む音が聞こえて。

「……なら、早く見つけないとね」

奴が、優しげな声で返してきた。
嗚咽と、動揺と、恐怖を押し殺した優しい声で。


「翡翠が消えてしまう前に……天眠を見つけ出そう……」




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