頭の中がズキズキする。
身体も、重い。

「これでまろ様が海堵の記憶保持者だと判明したわけだ」
「えぇ、あの力は……恐らくそうでしょうね」

近くで、誰かが話す声が聞こえた。
これは……羅庵と桂嗣なのらね?
ぼんやりと、目を開ける。天井の木目に、自分が布団で寝ていることに気がついた。
まろが記憶保持者とは、なんのコトなのら? そういえば、さっきの夢でも……。

「ウギャッ」
寝返りを打とうとして、背骨の辺りで激痛が走った。
「まろ様っ。お目覚めになられたのですか!?」
蛙の潰れたようなまろの悲鳴に、桂嗣がまろを覗き込む。
「うにょぉ〜。体が痛いのらよ……」
情けない声で呟けば、桂嗣がニッコリと笑ってまろの頭を撫でた。
「突然大きな力を使った反動が、まだ残っているんですね。でもすぐ羅庵が薬を出してくれますから大丈夫ですよ」
「おぅ! この優秀なお医者様が薬を調合してやるから、即効で治るぞ」
と羅庵もまろを覗き込み、ピースサインを出す。ってか。え……。
「羅庵の薬は飲みたくないのら」
疲れているせいか、本音が出てしまった。
「っがーーーーーん!!! 俺様ってばまろ様に信用されてないの!? 言っておくけど、俺の腕は最高だよ?」
大袈裟にショックを受けるふりをする羅庵。
「だって羅庵の腕は良くても、ちゃんと診察してくれないのら」
ボソリと反論する。そう、羅庵の腕は最高だ。けれど、性格が最悪だから。信用出来ない。
目でそう訴えると、羅庵がにやぁ……と笑った。
「なぁんだ。まろ様ってば、俺に診察して欲しかったのかぁ」
ニヤニヤと、それはもう嬉しそうに聴診器などを出してくる。 それ以前に羅庵よ。どうして私服のポケットから聴診器が出てくるだ。
そんな疑問は全く無視をした羅庵は、何故かまろの頭に聴診器の先を当てた。
「ん〜、この中は空っぽですね。いますぐ手術致しましょう」
「にゃぁぁっ。まろの頭はカラッポなのらか!?」
まろ、馬鹿だとは思ってたけど空だとは……ちょっと待て羅庵。雇われ医師のくせに、ご子息であるまろにそんなコトを言っていいのらか?
「遊んでないで、そろそろ薬を調合して差し上げて下さいな」
思わず両頬を膨らませると、ようやく隣で苦笑していた桂嗣が、まろで遊ぼうとしていた羅庵を止めた。

「んじゃま、真面目に診察しますかね。何処痛い?」
「頭と背中と腰とお腹と足と……」
「ん。更年期障害だね」

……羅庵? まろはまだ10歳なのらよ? 真面目に診察する気ないのらね? 聴診器もポケットに片付けてるし。
しかも何で胸ポケットから出した粉薬を水に溶かしてるのら? まさか其れが薬だなんて言うんじゃないのらよね?
「はい。んじゃぁコレ飲んだら治るから」
ニッコリと、まるで優しいお医者さんの顔をした羅庵が、さっき粉薬を溶かしていたコップをまろに差し出した。
「ソレを飲めと言うのらか?」
「飲みたくないなら、俺が飲ませてあげるけど?」
結局は飲めってコトじゃないのらか。
仕方なく、上半身を起こしコップを受け取る。その作業だけですら、泪が出そうなほどに痛い。

「アレ? なんでこの青年が此処で寝てるのら?」
そこで初めて、隣の布団に先ほどの青年が寝ていることに気がついた。
ハ!! もしかして死体!? まろ、死体と一緒に寝かされてたのらか!?
「まろ様の術の爆音で変なヤツが来てるって気づいてさ。退治しちゃった」
た……退治って害虫じゃあるまいし、羅庵??
「怪我させちゃいましたからね。簡単に手当てして寝かせているのですよ」
ほ、生きてたのらか。……ん? ということは。

「じゃぁ栗杷も助かったのらね?」
途中で意識を失ったから、あの後どうなったかが判らない。
「えぇ。栗杷様はもちろん元気な状態で、今は架愁と一緒に稽古してらっしゃいますよ」
え? もう稽古なんて始めちゃったのらか? 良くアンナコトの直ぐ後に。
「まろ様が大技を出したことで、闘志を燃やしているみたいです」
ぐぇ、栗杷って負けず嫌いなのらもんね〜。

「さ。それでは心配事も解決したわけだし、グイっと言ってみよ〜!!」
ナチュラルハイな口調で、羅庵がさっさと薬を飲めと煽る。
の、飲みたくないのら。
でも、自分で飲まなくては羅庵に無理矢理飲まされてしまう。
まろはぎゅっと鼻をつまみ、一気にその薬もどきを口に入れた。

「うげろろろぉぉぉん」
まっずいまずいまずいまずいいいいいいっ!!
「コラコラ。吐いちゃダメだからな〜」
その不味さに思わず出してしまいそうになったところを、羅庵に顎を押さえられ止められる。

ング……ゴックン。 どうにか飲み込めた。羅庵が満足そうな顔でまろから手を離す。
「まろ様って苦いの苦手だろ。だからあまぁぁくしてやったんだよ」
俺って優しい〜……と、ふざけたことを抜かす羅庵。
確かに苦くはなかった。甘かった。でもね? ソレにも限度ってものがあって!!!
練乳に砂糖と蜂蜜絡めて凝縮したようなアノ味は、絶対に良くないと思うのらよ!
口の中が、変にピリピリするの……。




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