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だりぃ……。
目の前にこびり付いた朱のせいで、瞼を開くことさえ上手く出来ない。
ったく、今日も嫌な記憶だったつーのによぉ……。
アイツら、絶対許さねぇ。

「稜(りょう)!? お前ドコに行ってたんだよっ」

安いアパートのドアを開くと、待っていましたとでも言うかのように、仁王立ちの桂嗣がいた。
あぁ、クソっ。面倒臭ぇ奴に見つかっちまった。いつもならこの時間は家にいねぇのに。

「あぁっ。お前また血付けて……まさか殺してねぇだろうな!?」
「煩せぇよっ! 俺がどうなろうと桂嗣には関係ねぇだろうがっ」
「関係ないだと? てめぇは誰の金で飯食ってると思ってんだっ」
「んなコト知るかっ。俺は疲れてるからさっさと寝てぇんだよ! 邪魔すんなっ」
「ってお前ソノ格好で布団入る気じゃねぇだろうな?」
「何か悪ぃかよ」
「悪いに決まってんだろ! 血付けたままで寝ようとするなっ」

ったく煩せぇなぁ。
少し位俺の好きにさせろってんだ。
……でも血生臭せぇのは本当か。

「風呂沸いてんの?」
「まだ湯は入れてねぇ。今入れるから、取り合えずシャワーで簡単に流しとけ」
「ん……」

喧嘩し続ける気力もねぇし、今は桂嗣の言うことを聞いてやっかな。
ノタノタと血の付いた服を脱ぎ捨て、風呂場へとむかう。


「そういえば、稜」
ガシャガシャとシャワーを浴びてたら、急に桂嗣が扉を開けやがった。
「今日は何で喧嘩したんだ?」
扉に寄り掛かっている桂嗣と、鏡越しに目があう。
「別に」
「海堵の記憶か?」

……やっぱ判ってんじゃねぇか。
つか判ってんなら、わざわざ聞くんじゃねぇよっ。

「どんなのだった?」
「いつもと同じ。何処見ても血の海だったさ」
「そうか。それで気分悪くなって、近場にいた奴に喧嘩吹っかけたってか?」
「……今日は俺から吹っかけたわけじゃねぇよ。気分悪くて倒れてたら、囲まれてた」
「負けたのか?」

桂嗣が、驚いたような声を出した。
俺が負けるだと?

「んなワケねぇだろ!ちゃんとヤったさ」
「ヤッた? 殺したのか?」

……ち。

「殺してねぇよ。途中で奴ら逃げやがった」
「それは正しい選択だな」

そこまで言って、桂嗣は風呂場から出て行った。
ったく、結局何の用だったんだよ!?
ってまぁ、海堵の記憶なんだろうけどよ。

……海堵の記憶か。なんか疲れてきたな。




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